誘電体(読み)ユウデンタイ(英語表記)dielectrics

デジタル大辞泉 「誘電体」の意味・読み・例文・類語

ゆうでん‐たい〔イウデン‐〕【誘電体】

電界内に置くと誘電分極を生じ、その両端の表面に正負の電荷が現れる物質。電気的絶縁体電媒質

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精選版 日本国語大辞典 「誘電体」の意味・読み・例文・類語

ゆうでん‐たいイウデン‥【誘電体】

  1. 〘 名詞 〙 電場の中におくと、誘電分極をして、両側の表面に正負の電荷が現われる物体。パラフィンガラス、雲母、合成樹脂などの絶縁体。電媒質。〔電気工学ポケットブック(1928)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「誘電体」の意味・わかりやすい解説

誘電体 (ゆうでんたい)
dielectrics

電気の絶縁体を電場の中におくと,正電荷は電場の方向に,負電荷は電場と反対方向に微小変位し,物質の構成要素は電気双極子モーメントをもつようになる。この現象を電気分極といい,電気分極の起こる物質を誘電体という。すなわち絶縁体と誘電体は同義であり,前者は電気の伝導性からみたときの呼名ということができよう。

 電気分極(単位体積当りの電気双極子モーメント)P,誘電体内の電場E電束密度Dの間には,

 D=ε0EP ……(1) 

 D=ε′E=ε0εE ……(2) 

 P=ε0χE ……(3) 

という関係が成り立つ。ここで(2)式におけるε′を(絶対)誘電率といい,これを真空の誘電率ε0=8.85×10⁻12F/mで割ったεを比誘電率という。(3)式のχは電気感受率で,これを用いると比誘電率εはε=1+χで与えられる。εは誘電体の電気分極のしやすさを表し,等方性物質では,ふつう物質によって定まる定数である。静電容量Cの平行平板空気コンデンサーの極板間を,比誘電率εの誘電体で満たすと,静電容量はε倍になる。比誘電率の値は,気体ではほぼ1に等しく,通常の固体では2程度から10程度までの値をもつが,チタン酸バリウムなどの強誘電体では103程度の大きな値に達する。なお,誘電体に周波数ωの電場を加えて,同じ周波数の電束密度が生ずるときに,ε(ω)をその誘電体の誘電関数という。

固体誘電体は,常誘電体,強誘電体,反強誘電体などに分類される。

(1)常誘電体 電場を加えない状態では電気分極は0で,電場を加えると電場に比例した電気分極が生ずるものを常誘電体という。NaClのように,誘電分極がイオンの変位によって生ずる場合(イオン分極)には,温度が上昇すると格子がやわらかくなるから,誘電率は温度の上昇とともに少し増大する。

(2)強誘電体 電場を加えない状態でも一定の値の分極,すなわち自発分極をもち,その自発分極が電場によって方向を反転しうるものを強誘電体という。強誘電体の内部は自発分極が一定の方向を向いている正,負の小領域に分かれており(この領域を分域またはドメインという),正,負の分域は,互いに結晶学的双晶の関係にある。強誘電体に電場を加えると分域壁が移動し,電場と逆方向の分域が減ったり,新たに電場と同方向の分域が発生する。電場を逆転させると,逆方向の電気分極をもつ分域が発生し,電場をさらに加えていけば結晶全体としての電気分極が反転する。これに伴って,電場と電束密度(あるいは結晶全体の電気分極)はヒステリシス曲線を描く(図1)。強誘電体は高温では一般に自発分極をもたず,温度を下げていくと,一定の温度で強誘電相へ相転移する。これを強誘電相転移という。この相転移点(キュリー点ということがある)以上の温度では,誘電率は温度が下がるとキュリー=ワイスの法則に従って増大し,相転移点で発散する。強誘電相転移の高温相では,誘電率はNaClのような常誘電体とはまったく異なり,したがって,常誘電相ではなく,パラ誘電相と呼ばれる。

(3)反強誘電体 結晶が二つの互いに等しい副格子からなり,その副格子が互いに逆向きの極性をもつとき,この結晶を反極性結晶という。反極性結晶は自発分極をもたないが,外部電場がある一定の値を超えると自発分極が誘起されるものがある。このような反極性結晶を反強誘電体という。反強誘電体は電場が0のとき自発分極をもたないが,電場がある値を超えると自発分極が誘起されるから,図2のような二重ヒステリシス曲線を示す。反強誘電体は高温ではパラ誘電相であり,反強誘電相転移点で相転移して反強誘電相になる。

 誘電体結晶は,以上の相転移のほか,真性弾性相転移,スタガード相転移などの構造相転移をする。また,そのような構造相転移をした結果,強誘電性が誘起される例もいくつか知られている。そのような場合,誘電率はキュリー=ワイスの法則に従わない。

正イオンと負イオンの二つの副格子からなるイオン結晶の誘電関数は,横波光学モード周波数をωT0,ωT0に比べて十分高い周波数および十分低い周波数に対する誘電率をそれぞれε(∞),ε(0)とすると,が成り立つ(黒沢の式)。この誘電関数の極点はωT0,零点は縦波光学モード周波数ωL0を表すので,の関係が成り立つ。これをLST(リデン=ザックス=テラー)の関係式という。

時間的に変化する電場によって電気分極が生ずるとき,因果律により,電気分極の変化が電場の変化に先立つことはない。このことから,電気感受率関数χ(ω)の実部χ′(ω)と虚部χ″(ω)は互いに独立ではなく,

が成り立つ。これをクラマース=クローニヒの関係式という。これは線形応答関数の実部と虚部の間に成り立つ一般的な関係であり,因果律の結果である。この関係があるので,例えば,エネルギー反射率の周波数スペクトルを測定すれば,χ′(ω),χ″(ω)を求めることが可能である。
電気分極
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「誘電体」の意味・わかりやすい解説

誘電体
ゆうでんたい
dielectric substance

物質の中に電気分極(誘電分極または単に分極ともいう)が外部電界で誘起される性質、および本来電気分極が存在する性質が、物質の誘電性である(図A)。その誘電性に注目され、あるいはその誘電性が利用される物質が誘電体である。物質の誘電性は、普通この物質の電気絶縁性が高いほど明快であるので、具体的な物質としては、誘電体は絶縁物に近いものが多い。しかし、誘電性と絶縁性とはまったく別の性質であり、優れた誘電材料と優れた絶縁材料とは別の物質である。

 電磁気学によると、物質の電気分極P、物質の電束密度Dと電界Eとの間には、つねにD0E+Pという関係式が成り立つ。ここにε0は真空の誘電率である。

[沢田正三]

誘電体の分類

誘電性は常誘電性と強誘電性とに分けられ、これに対応して、誘電体は常誘電体と強誘電体とに分けられる。

〔1〕常誘電体 常誘電性は普通の誘電性であって、外部電界によって誘起される電気分極すなわち誘起分極だけを示す性質である。常誘電性を示す誘電体が常誘電体である。

 図Bの(1)に示すように、常誘電体では、普通DEに比例しD=εε0Eが成り立つ。ここに、εε0は絶対誘電率であり、εは比誘電率であるが単に誘電率ともいわれる。常誘電体としては、気体、液体のものもあるが、誘電材料として重要なものはほとんど固体である。

〔2〕強誘電体 強誘電性は、図Bの(2)に示すように、Eの交流的変化に伴って、DEとの関係はD-E履歴曲線(単に履歴曲線ともいう)となる。この曲線の特色は、Eの増加の際と減少の際とでDが異なること、E=0でもD≠0であること、十分大きなEに対してDの飽和がみられることである。強誘電性でE=0でもD≠0であることは、本来電気分極Pが存在することである。かつ、図でわかるように、この分極の極性は電界Eの極性の反転とともに反転する。このような分極は自発電気分極(または単に自発分極)とよばれ、強誘電性は自発分極が存在する性質ということができる。強誘電性には誘起分極も存在する。強誘電性を示す物質が強誘電体である。強誘電体はほとんどつねに、それぞれに特有の温度で(多くは加熱の際)相転移をおこして、強誘電性状態から常誘電性状態へ移る。この温度はキュリー温度またはキュリー点といわれる。強誘電性は、結晶にだけ、それも特殊な対称性(結晶構造)をもつ結晶にだけみられる。結晶はその対称性から圧電性を示すものと示さないものとに分かれ、圧電性を示すものはさらに焦電性を示すものと示さないものとに分かれる。焦電性を示す結晶は極性結晶といわれ、これには本来広義の電気分極が存在するが、一般の極性結晶ではこの分極は電界の反転とともに反転はしない。極性結晶のうちで、電界とともに反転する分極すなわち自発分極をもつものが強誘電体である。自然界に極性結晶はきわめて多数存在するが、それらのうちで強誘電体であるものは少数である。今日までに約250種類の強誘電体が知られている。

[沢田正三]

誘電体の実用価値

誘電体は、コンデンサーの材料としてきわめて広範囲に使用されているし、圧電材料、焦電材料としても重要である。圧電材料、焦電材料としては強誘電体が用いられることが多い。強誘電体は電歪(でんわい)材料、電気光学材料などにも用いられる。

[沢田正三]

『岡田利弘編『電気物性』(『実験物理学講座16』1977・共立出版)』


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百科事典マイペディア 「誘電体」の意味・わかりやすい解説

誘電体【ゆうでんたい】

電場内におくと誘電分極を生じる物体。電気的絶縁体と同義。絶縁体はすべて誘電体で,その性質は誘電率誘電損失で示される。誘電体はふつう蓄電器に,極間の絶縁をよくし容量を増すため用いられる。雲母,油をしませた紙,酸化チタン磁器,ガラス,合成樹脂などがその例。→誘電加熱強誘電体
→関連項目電束密度特殊陶磁器

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「誘電体」の意味・わかりやすい解説

誘電体
ゆうでんたい
dielectric substance

絶縁体,電媒質ともいわれる物質。静電場を加えると分極を生じるが,導体と異なり,自由電子がほとんどないので直流電流はほとんど流れない。しかし交流電場では分極の遅れによる交流電流があり,誘電損失を伴う。誘電体の電気的特性を表わす量としては分極率誘電率があり,コンデンサの容量増加などに利用される。誘電体のなかには外部電場なしに存在する自発分極をもったものもあり,強誘電体と呼ばれる。

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化学辞典 第2版 「誘電体」の解説

誘電体
ユウデンタイ
dielectrics

絶縁体に電場がはたらくと,その内部に電気の誘起分極が生じ,真空中より誘電率の増大がみられる.この性質に着目したとき,絶縁体を誘電体という.

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世界大百科事典(旧版)内の誘電体の言及

【電気】より

…われわれがいえるのは,ミクロの粒子は電荷という量をもち,粒子が作る電場や磁場の強さは電荷に比例し,また粒子が電場や磁場の中で受ける力も電荷に比例するということまでである。電荷
[導体と絶縁体]
 電気的性質に着目するとき,物質は導体と絶縁体(誘電体ともいう)に大別され,さらにその中間の性質をもつものとして半導体がある。固体の導体すなわち金属では,結晶を構成する原子の原子価電子は,原子を離れて結晶中を動きまわれるので,伝導電子と呼ばれる。…

※「誘電体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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