負す(読み)オオス

デジタル大辞泉 「負す」の意味・読み・例文・類語

おお・す〔おほす〕【負す/課す】

[動サ下二]
背に負わせる。かつがせる。
片思ひを馬荷ふつまに―・せ持て越辺に遣らば人かたはむかも」〈・四〇八一〉
責任や罪などを負わせる。
「まさに重き罪に―・せむ」〈孝徳紀〉
命じて、物などを出させる。課役する。課税する。
諸国くにぐにに―・せて船舶ふねを造らしむ」〈皇極紀〉
名をつける。
「且名を―・せて稲田宮主須賀之八耳神いなだのみやぬしすがのやつみみのかみなづけ給ひき」〈・上〉
危害などを被らせる。受けさせる。
「やにはに十二人射殺して、十一人に手―・せたれば」〈平家・四〉
負債を負わせる。貸す。
「ナンヂニ―・セタ小麦一石」〈天草本伊曽保・犬と羊〉

おう・す〔おふす〕【負す】

[動サ下二]
《「おお(仰)す」の上代東国方言》命令する。
潮舟越そ白波にはしくも―・せたまほか思はへなくに」〈・四三八九〉
おお(負)す1」に同じ。
越後えちご国より鮭を馬に―・せて」〈宇治拾遺・一〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「負す」の意味・読み・例文・類語

おお・すおほす【負・課・仰】

  1. 〘 他動詞 サ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ] ( 負・課 ) 「おう(負)」に対する使役形で、「負わせる」の意。
    1. 背に負わせる。物などを持たせる。
      1. [初出の実例]「片思ひを馬にふつまに於保世(オホセ)もて越辺(こしへ)にやらば人かたはむかも」(出典万葉集(8C後)一八・四〇八一)
      2. 「さまざまにせさせ給ふことは多かりけれど、〈略〉ただこの人におほせたる程なりけり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蜻蛉)
    2. 責めを負わせる。罪をかぶせる。責任を持たせる。かこつける。
      1. [初出の実例]「他(ひと)貨賂(まひなひ)を取りては、二倍(ふたへ)して徴(はた)らむ。遂に軽さ重さを以て罪科(オホセむ)」(出典:日本書紀(720)大化元年八月(北野本訓))
      2. 「もろともに罪をおほせ給ふは、恨めしき事になむ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)乙女)
    3. ( 名を負わせるの意で ) 名をつける。
      1. [初出の実例]「名を負(おほせ)て、稲田宮主須賀之八耳神と号(なづ)けたまひき」(出典:古事記(712)上)
    4. 受けさせる。こうむらせる。また、特に「手おほす」の形で、傷つける。
      1. [初出の実例]「をしと思ふ心はなくてこのたびは行く馬にむちをおほせつるかな〈よみ人しらず〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)離別・一三一一)
      2. 「走りかかりつつ斬り廻りけるを、あまたして手おほせ、打ち伏せて縛りけり」(出典:徒然草(1331頃)八七)
    5. ( 物を出す義務などを負わせるの意で ) 物などを出すことを命ずる。課税する。課役する。
      1. [初出の実例]「復、諸国(くにくに)に課(オホセ)て、船舶(ふね)を造ら使む」(出典:日本書紀(720)皇極元年九月(図書寮本訓))
    6. ( 債務を負わせる、負財させるの意で ) 借りさせる。貸す。
      1. [初出の実例]「つゐにはわたす大はん若きゃう おほせたる六百貫をせめられて」(出典:俳諧・竹馬狂吟集(1499)一〇)
  3. [ 二 ] ( 仰 ) ( [ 一 ]から出たもので、「ことばを負わせる」というところから、言いつける、命令するの意となり、上位者から下位者に命ずるのが普通であるところから、尊敬語意識が生じた。また、上位者のことばを、言いつけられたものとする気持からか、一方では単に「言う」の尊敬語としての用法も生ずる )
    1. ( 尊敬語意識を含むことも多い ) 上位から下位に向かって言いつける、命令する。お言いつけになる。御命令になる。
      1. (イ) 単独で用いる場合。
        1. [初出の実例]「伊迦賀色許男の命に仰(おほ)せて、天の八十毘羅訶(やそびらか)を作り、天神地祇の社を定め奉りたまひ」(出典:古事記(712)中)
        2. 「大井の土民におほせて、水車を造らせられけり」(出典:徒然草(1331頃)五一)
      2. (ロ)仰せ給ふ」の形で用いる場合。「給ふ」は上位から下位へ与える意で、「仰す」について命令する方向をはっきりさせたものか。中には、「仰せ」が動詞連用形か名詞か判別しにくい用例もある。御命令下される。
        1. [初出の実例]「又 百済の国に『若し賢(さか)しき人有らば貢上(たてまつ)れ』と科(おほせ)賜ひき」(出典:古事記(712)中)
      3. (ハ) 「仰せらる」の形で用いる場合。→おおせられる
    2. 「言う」の尊敬語。おっしゃる。「のたまう」に比べ、これの方が下位者に言いかける、問いかける気持を含み、また、中世初期ごろには敬意も強かったようである。
      1. (イ) 単独で用いる場合。
        1. [初出の実例]「さきにおほするなむ、例忠房舌をまき頭をたれて」(出典:延喜廿一年京極御息所褒子歌合(921))
      2. (ロ) 「仰せ給ふ」の形で用いる場合。
        1. [初出の実例]「御子の君〈略〉かしこき玉の枝を作らせ給ひて、官(つかさ)も賜はむとおほせ給ひき」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      3. (ハ) 「仰せらる」の形で用いる場合。→おおせられる

おう・すおふす【負】

  1. 〘 他動詞 サ行下二段活用 〙 命ずる、言いつける意の「おおす(負)」の上代東国方言。
    1. [初出の実例]「潮船の舳(へ)越そ白波にはしくも於不世(オフセ)賜ほか思はへなくに」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三八九)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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