特定の株式や商品を個人または集団で大量に買い集めること。商品の買占めは値上りによる利益獲得を目的としているが、株式の買占めは次のような種々の目的で行われる。(1)過半数の株式を買い占めて経営権を取得する、(2)購入株式数を背景に相手方に高値で引き取らせ、失脚を謀る、(3)買占めによる品薄の結果、株価の値上りが期待できる、などである。株式の買占めは、資本主義経済における必然的な現象であり、その動機も多様なことから、一概に非難できない面を含んでいる。金融業の株式保有は1割を限度とすることが法律で規制されている場合もある。経営権取得に関する買占めに対しては1973年(昭和48)にTOB(株式公開買付制度)が発足した。商品の買占めに対しては1973年、「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」(買占め売惜しみ防止法、昭和48年法律第48号)が制定され、国民生活に関係の深い物資について価格の騰貴のおそれがある場合、政令でその商品は特別調査の対象となり、生産者、販売者は在庫の報告が求められ、必要に応じて立入り検査が行われ、買占めの事実に対して売渡しが命ぜられる。
買占め事件としては、明治初めの松谷元三郎による大阪米穀取引所の買占め事件、明治末年の鐘淵(かねがふち)紡績の買占め事件、1955年(昭和30)の山崎種二による小豆(あずき)買占め事件が知られ、経営権取得を目的としたものに1952年の横井英樹(ひでき)の株式買占めによる白木屋(しろきや)乗っ取り事件などがある。
[桶田 篤]
最近の事例としては、堀江貴文が代表権をもって経営していた株式会社ライブドアによる、ラジオ局ニッポン放送株の購入、および、村上世彰(よしあき)が率いていた投資ファンド「M&Aコンサルティング」(通称、村上ファンド)の阪神電気鉄道株購入についての問題などがあげられる。
そもそもTOBは「市場外」での不公正な取引を想定してルールがつくられていたため、市場外取引(取引所外取引)において発行済株式数の3分の1超を取得する場合には、かならずTOBを行う旨が義務づけられていた。しかし、ライブドアによるニッポン放送株の購入では、市場内取引ではあるものの、時間外取引である「立会外取引」を利用したものであったため、それまでのTOBのルールに照らせば、違反として取り締まることはできなかった。そのためTOBルールを改訂し、立会外取引でも発行済株式数の3分の1超を取得する場合にも、TOBによることを義務づけることになった。
ところが、村上ファンドによる阪神電鉄株購入では、発行済株式数の3分の1を超えないすこし手前まで市場外取引により株式等を買い進めた後、発行済株式数の3分の1を超える部分については市場取引を行ったのである。そのため、村上ファンドは、TOBを行わずに阪神電鉄の発行済株式数の3分の1超の株式を取得したと主張している。
このような問題が、今後も引き続き発生する可能性が否めないため、金融庁としても対策に乗り出し、3か月以内の株式等の買付け等は「一連の取引」として、発行済株式数の3分の1超を取得する場合には、かならずTOBを行う旨が義務づけられることになった。
以上のような問題を教訓に、証券取引法を引き継いだ金融商品取引法では、いっそう厳しいTOBルールを制定している。
[前田拓生]
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