日本大百科全書(ニッポニカ) 「貸付資金説」の意味・わかりやすい解説
貸付資金説
かしつけしきんせつ
loanable funds theory
利子率の決定に関する理論の一つで、フローの貯蓄(貯蓄のうち一定期間中に増減する部分)と投資を均衡させる水準に金利が決まるという考え方。一定期間内の貸付資金に対する需給を考えるもので、貯蓄率や投資の限界効率などが金利の決定要因として重視される。ストック重視の流動性選好説に対比される学説である。利子率決定理論にはさまざまな学説があるが、古典派とよばれる経済学では利子率は貯蓄と投資が等しくなるところで決定されるものと考えられていた。この古典派利子理論の近代版が貸付資金説で、D・H・ロバートソンやB・G・オリーンによって主張されたものである(新古典派利子理論ともいわれる)。この理論によれば、利子率は貸付資金の需要と供給によって決定され、貸付資金の需給の決定要因が利子率を決定することとなる。貸付資金の需要要因としては、投資と保蔵(貨幣残高増加のための資金需要、つまり貨幣需要)がある一方、貸付資金の供給要因としては、貯蓄と金融機関の信用創造があげられる。つまり、利子率は、資本財に対する需要(投資)と資本財に対する供給(貯蓄の結果としての現象)という実物的な側面ばかりでなく、貨幣の需要・供給という貨幣的な側面も視野に入れて、その両者によって決定されることとなる。簡潔には、 で示したように、貯蓄(S)と投資(I)の交点で決定されるi0が古典派理論による利子率であるのに対し、ケインズの流動性選好説では貨幣の需要(ΔL)と供給(ΔM)のみによって利子率は決定されるとするので、それはi1で示されることとなる。貸付資金説は、I+ΔLという貸付資金の需要と、S+ΔMという貸付資金の供給の交点i2が求める利子率であるとする。
この点で、古典派理論と流動性選好説を総合しているともいえるが、貸付資金説は一定期間における貸付資金の需要・供給を問題とするフロー分析であり、貨幣的要因もフローに限定されている点で、流動性選好説のストック分析とは異なっている。
[村本 孜]
『W・T・ニューリン著、小泉明監修、山田良治・花輪俊哉訳『貨幣の理論』第2版(1974・東洋経済新報社)』▽『阿達哲雄著『金利』(1975・金融財政事情研究会)』