日本大百科全書(ニッポニカ) 「走幅跳び」の意味・わかりやすい解説
走幅跳び
はしりはばとび
long jump
陸上競技の跳躍種目の一つ。助走路を走り、踏切板を基準にして跳躍し、その距離を競い合う。踏切板は白色で長さ1.22メートル、幅20センチメートル、厚さ10センチメートル以内とし、助走路および砂場の表面と同じ高さで、助走路に対して直角に埋める。助走路は40メートル以上とする。踏切線(踏切板の砂場に近いほうの端)の先には、競技者の踏切足が踏切線から出たとき(ファウル)痕跡(こんせき)が残るように、粘土板を置き、踏切板と区別できる色にする。粘土板は踏切板の水平面より約7ミリメートル盛り上がっていなければいけない。
8人を超える競技者が参加した場合、最初の3回の跳躍でベスト8を選び出し、その成績の低い順からさらに3回跳躍を行い、合計6回を通じてベストの記録で勝敗を決める。ベストが同記録の場合は、当該者同士の6回の試技のうちの2番目の記録のよいほうを上位とする。それでも同じ場合はさらに3番目、4番目と比べて決める。それでも同じ場合は同順位とする。参加者が多数のときは予選を行う。
また、次の場合は無効試技と判定される。(1)競技者が跳躍しないで走り抜けたり、跳躍の際に体のどこかが踏切線の先の地面(粘土板を含む)に触れたとき。(2)踏切板の両端より外側から踏み切ったとき。(3)宙返りのようなフォームを使ったとき。
競技者が踏切板に達する前に踏み切っても無効試技にはならないが、計測は踏切線から行われる。距離の測定は、体のどの部分であろうと、それが砂場に残した踏切線にもっとも近い痕跡から、踏切線までを踏切線に直角に計測する。距離は1センチメートル単位で記録し、端数は切り捨てる。追い風が2メートルを超えた場合は記録は公認されないが、順位決定には関係しない。
オリンピックでは、男子は1896年のアテネ大会から、女子は1948年のロンドン大会から正式種目となった。スピードと筋肉の弾力性のある黒人選手が強く、カール・ルイスCarl Lewis(アメリカ。1961― )が1984年のロサンゼルス大会から4回連続優勝の快挙を成し遂げた。日本選手では、南部忠平(なんぶちゅうへい)が1932年のロサンゼルス大会で、田島直人(たじまなおと)も1936年のベルリン大会でともに3位に入った。2020年1月時点での世界記録は、男子がマイク・パウエルMike Powell(アメリカ。1963― )の8メートル95センチ(1991年)、女子はガリナ・チスチャコワGalina Chistyakova(旧ソ連。1962― )の7メートル52センチ(1988年)である。
パラ陸上(障害者陸上競技)においては、視覚障害の全盲クラスなどでは、エスコートやコーラーとよばれるアシスタントが助走方向や踏切位置を声や手拍子で伝え、競技者を助ける。そのため、声が聞こえるように試技の際は観客は静かにしないといけない。義足選手の場合は、跳躍中に義足が脱落したときは踏切板から義足が落下した痕跡の最短距離が記録となる。ただし、砂場の手前や外に落下した場合は無効試技となり、助走中の脱落時は制限時間内であれば装着し直して再度助走を行うことができる。
パラリンピックでは、1976年のトロント大会で男女ともに初めて実施された。最近は強すぎる義足選手が議論をよび、マルクス・レームMarkus Rehm(ドイツ。1988― )は義足による踏切時のバネ効果について、健常者との公平性の証明が不十分として、オリンピックの2016年リオ・デ・ジャネイロ大会への参加が認められなかった。レームが2018年につくった世界記録は8メートル48センチで、オリンピック・リオ・デ・ジャネイロ大会(2016)の優勝記録8メートル38センチを上回る。
[加藤博夫・中西利夫 2020年2月17日]