跳・撥・刎(読み)はねる

精選版 日本国語大辞典 「跳・撥・刎」の意味・読み・例文・類語

は・ねる【跳・撥・刎】

[1] 〘自ナ下一〙 は・ぬ 〘自ナ下二〙
① 地面などをけって飛び上がる。おどり上がる。
平家(13C前)九「熊谷は馬のふと腹ゐさせて、はぬれば足をこいており立たり」
※わらべうた・うさぎうさぎ(1751‐72頃)「うさぎ うさぎ 何見てはねる」
② 水や泥などが飛び散る。
※咄本・鹿の子餠(1772)雪隠「雪ちんにて声有。その声、はねるたびたび、尻をひねるやうすにて」
③ 弾力のある物が他の堅い物にぶつかって元の方へもどる。はずむ。「鞠がはねる」
④ 文字の線やとがったものの先などが、飛び上がるように上に向く。
※子をつれて(1918)〈葛西善蔵〉「鬚が頬骨の外へ出てる程長く跳ねて」
⑤ はじける。
※松翁道話(1814‐46)一「忽ちはちはちはちとはねる拍子に」
⑥ 遊里などで、大いにもてる。厚遇を受ける。歓迎を受ける。〔洒落本・魂胆惣勘定(1754)〕
⑦ 変化に富む。一風変わる。
※咄本・軽口へそ順礼(1746)一「女良もふるめかし。なんぞはねたものがよびたいが」
⑧ 活発に動きまわる。
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「なんぼきゃんでもはねてゐても、そこは女だけで」
芝居などの興行が、当たりをとる。大いに受ける。
※洒落本・遊客年々考(1757)「きつうはねる芝居じゃのと心一ぱいの返答にて」
⑩ 芝居、相撲などの、その日の興行が終わる。打ち出しとなる。芝居小屋の出口の筵(むしろ)を上の方にはね上げたところからいう。また転じて、会合などが終わることにもいう。
※洒落本・玉之帳(1789‐1801頃)一「よっぴていでんぼう〈芝居でぶうぶうをいふ通言也〉をいいの今はね〈はねとはうち出しの事〉やした」
※札の辻(1963)〈遠藤周作〉「会がはねたあと、みんなはそれぞれタクシーをつかまえて」
⑪ (綽) 囲碁で、自分の石から斜めに相手の石に接触して打ち、相手の進路を止める。
※談義本・教訓雑長持(1752)一「イヤ休夕と申は、碁打でござりましたが、網打に出て、大きな石へ打かけ、はねても切てもとればこそ」
⑫ 相場が急に上がる。はね上がる。〔取引所用語字彙(1917)〕
⑬ 歌舞伎社会の隠語で、馬鹿・間抜けのこと。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下「能(いい)きぜんだぜ。どう見てもはね居(て)るぜへ」
[2] 〘他ナ下一〙 は・ぬ 〘他ナ下二〙
① 勢いよく上げる。払い上げる。はね上げる。
万葉(8C後)二・一五三「沖さけて 漕ぎ来る船 辺つきて 漕ぎ来る船 沖つかい いたくな波禰(ハネ)そ 辺つかい いたくな波禰(ハネ)そ」
※夏の流れ(1966)〈丸山健二〉一「蚊帳の裾をはねた」
② (刎) 刀で切り落とす。
書紀(720)安康元年二月(図書寮本訓)「自ら刎(クヒハネ)皇尸(みかはね)の側に死ぬ」
※平家(13C前)二「その弟左衛門尉師平、郎等三人、同く首をはねられけり」
③ とび散らす。はじきとばす。はねとばす。はねのける。
※虎明本狂言・文蔵(室町末‐近世初)「むまの上にて無手(むんず)とくみ、両馬があひにどうとおつ。〈略〉ゑいやとはぬれはころりところび」
階級(1967)〈井上光晴〉一〇「その晩、バイクにはねられて」
④ 取り除く。取り払う。除外する。また、計算などで端数を捨てる。
浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「一文はねて六文にして」
⑤ 人の取り分の一部分をかすめ取る。
浮世草子・好色貝合(1687)下「それ者(しゃ)肝煎(きもいり)十分一をはねる」
⑥ 断わる。拒否する。拒絶する。はねつける。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)五「そんな阿呆ぬかす客は、はねてはね散らかせ」
検査試験で不合格にする。
※煤煙の臭ひ(1918)〈宮地嘉六〉一「まづく行ったら身体検査ではねられて」
⑧ (撥) 仮名で「ん」「ン」と表記される音で発音する。撥音(はつおん)で言う。
※無名抄(1211頃)「はねたる文字、入声の文字のかきにくきなどをば、みなすててかく也」
⑨ 文字の線の先を書く時に、筆を止めずに、筆の先を上げるようにして書く。
※和英語林集成(再版)(1872)「ジヲ hanete(ハネテ) カク」

はね【跳・撥・刎】

[1] 〘名〙 (動詞「はねる(跳)」の連用形の名詞化)
① はねること。反動をつけて飛び上がること。
※太平記(14C後)九「武部七郎、妻鹿が鎧の上帯を踏で肩に乗揚り、一刎(ひとハネ)刎て向の岸にぞ着ける」
② 水、泥などがとび散ること。また、とび散った泥、水。しぶき。飛沫。
※日葡辞書(1603‐04)「Fanega(ハネガ) アガル」
③ 反動。はねかえり。
※歌舞伎・傾情吾嬬鑑(1788)序幕「扇子で面を叩かれて、その分にゃア置かれまい、定めてはねがあんべいな」
④ 人なみより活発なこと。また、でしゃばりなこと。おきゃんなこと。また、その人。おはね。はねかえり。
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉七「出過(ですぎ)を、はね、飛あがり」
⑤ もてはやされること。大いに受けること。当たりをとること。
※談義本・根無草(1763‐69)後「此子は一はねはねふと思へば、飛つく程慾いから」
⑥ 芝居などの興行が終演になること。その日の興行が終わること。打出し。
※雑俳・歌羅衣(1834‐44)五「急ぐ女気・刎(はね)に最(も)う内案事」
⑦ 物事や話などの結末。くぎり。また、話の落ち。
※浄瑠璃・艷容女舞衣(三勝半七)(1772)下「是をはねにモウ逝ふじゃ有るまいか」
⑧ (綽) 囲碁で、双方の石が接触しているとき、相手の進路を止める形で自分の石から一つ斜めに打つ手段。
⑨ 他人の利得の一部分をかすめ取ること。また、そのもの。ぴんはね。撥銭(はねせん)
※浮世草子・武道伝来記(1687)八「袋に扶持かた米のはね入させ」
⑩ 和船の艫𦨞(ともかわら)の反り上がりのこと。立(たち)ともいう。
※廻船寸法割方控(18C末)「はば五尺、はね尺七寸」
⑪ (撥) 文字を書くとき、筆の終わりを上にはねて書くこと。また、その文字の部分。
⑫ =ばね(発条)〔訓蒙図彙(1666)〕
[2] 〘接尾〙 兜(かぶと)を数えるのに用いる。頭(とう)。〔文明本節用集(室町中)〕

は・ぬ【跳・撥・刎】

〘自他ナ下二〙 ⇒はねる(跳)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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