東京都八王子市下恩方に行われている人形芝居。抱え型の一人遣い人形で,遣い手が轆轤(ろくろ)車と呼ばれる特殊な座車に腰をかけて人形を遣う。八王子市子安,奥多摩町川野などに伝わり,1973年までは埼玉県入間郡三芳(みよし)町竹間沢(ちくまざわ)でも行われていた。これらは素人の郷土芸能にすぎないが,下恩方のは職業的人形座である。
創案は加治(現,埼玉県飯能市)に生まれた永岡柳吉(1824-97)で,説経節の習得ののち,大坂で人形遣いを修業し,江戸に帰って江戸人形遣いの3代目西川伊三郎の門弟となり西川古柳と称し,大神(現,昭島市)に住んで,碁盤人形をヒントに車人形を考案したと伝える。文楽人形と同様の三人遣いの人形を一人遣い用に改めたもの。轆轤車は樫材の車輪が前に二つ,後に一つついている箱状で,遣い手はこれにまたがる。首(かしら)と右手は文楽と同じ扱いで,左手は江戸初期に考案されていた弓手(ゆんで)(関節にばねをつけてひもを引いて操作する)を改良して用い,脚は遣い手の足の指にはさんで遣うという方式である。この遣い方をすると人形が地を歩くように見え,宙に浮く文楽にくらべて現実感がある。地は説経節であったが,1975年ごろから義太夫節にかわった。81年初めには大正末期に成立した乙女文楽の首と胴串受けの構造も導入し,新車人形を誕生させ,新たな人形創作の傾向に向かっており,指人形を除く江戸初期以来のさまざまな人形機構の集約をみた。現在は初世古柳の門弟西川柳時の孫に当たる4世西川古柳が主宰し,その子が4世柳時を名のっている。
執筆者:西角井 正大
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人形芝居の一種。人形遣いが轆轤(ろくろ)車とよばれる3輪の台車に腰をかけて1人で操るもの。幕末から明治にかけて、埼玉県飯能(はんのう)市阿須(あず)出身で大阪で人形遣いの修業をした西川古柳(こりゅう)(1824―97)が、三人遣いの人形を一人遣いで操れるよう改良・創案した。東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨などに約10か所の故地があるが、現在は東京都八王子市下恩方(しもおんがた)町の西川古柳座(4代目古柳)が職能人形座として存在するほか、同市子安(こやす)町、東京都西多摩郡奥多摩町川野、埼玉県入間(いるま)郡三芳(みよし)町竹間沢(ちくまざわ)に遺存している。伴奏は説経節(せっきょうぶし)であるが、説経節の衰退に伴い、西川古柳座では義太夫節(ぎだゆうぶし)に切り換えている。黒衣を着た人形遣いは、轆轤車(自由自在な動きがとれる)にまたがり、右手で人形の右手を、左手で人形の首(かしら)と左手を、足で人形の脚(あし)を遣う。人形の左手は弓形状につくられた弓手(ゆんで)で、首の心串(ぐし)に十字に添えて保つが、その腕や指の屈折は弓手の紐(ひも)で人形遣いの右手で操る。人形の脚が床に着くので多くの人形芝居に用いられるような手摺(てすり)は不要で、平舞台で上演できる。
[西角井正大]
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人形遣いが,三つの車のついた台車(轆轤(ろくろ)車)に腰掛け,前後左右に動いて遣う,1人遣いの人形芝居。左手で人形の胴串と左手を,右手で人形の両手の紐をもち,足指の間に踵(かかと)の突起を挟んで操る。幕末期,経費削減のため,3人遣いの人形を1人で遣えるようにと西川古柳(こりゅう)が考案し,東京・埼玉・千葉・神奈川を巡演したので,現在も東京都八王子市を中心とする地域に残る。地は説経節が基本だったが,今では義太夫節を用いる。
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…また体内に細工した糸を引いて男人形,鬼神,観世音と手品のように変化させる手妻人形もあり,元禄期(1688‐1704)にはその名手に山本飛驒掾がいた。一人遣いの形式は,文楽のつめ人形や東京八王子の車人形,乙女文楽に残っているが,手妻人形の背後から手を差し込み引き糸で首を動かす方法は,やがて三人遣いに発展した。 今日の文楽のような三人遣いは元禄期の江戸孫四郎座にもあったが,本格的に活用されたのは1734年(享保19)の《蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)》の与勘平・野干平の人形からである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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