軍票(読み)グンピョウ

デジタル大辞泉 「軍票」の意味・読み・例文・類語

ぐん‐ぴょう〔‐ペウ〕【軍票】

《「軍用手票しゅひょう」の略》主として戦地・占領地で、軍が通貨に代えて発行する手形軍用手形

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「軍票」の意味・読み・例文・類語

ぐん‐ぴょう‥ペウ【軍票】

  1. 〘 名詞 〙ぐんようしゅひょう(軍用手票)」の略。
    1. [初出の実例]「満州の支那官衙に於て公租として、軍票を請取るに至りたること是なり」(出典:東京朝日新聞‐明治三八年(1905)三月二二日)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「軍票」の意味・わかりやすい解説

軍票 (ぐんぴょう)

戦争またはこれに準ずる事変,国外出兵の際に,作戦地域,駐留地域において軍が経費支弁のために使用する支払証票で,通常は政府紙幣形態をとっている。正確には軍用手票といい,日清戦争時には軍用切符と称した。戦時に軍票が発行されるのは,正貨ないし外貨の節約,物資調達や支払上の便宜(現地通貨の調達は円滑にいく保証がない),本国通貨使用による本国通貨への悪影響(本国通貨の価値の動揺等)の防止,経済戦争実施による相手国抗戦力の経済的基礎を動揺させる効果,などの理由による。日露戦争時の閣議は,〈正貨ノ需用愈々加ルハ勢免レザル所ナルヲ以テ,可成正貨節用ノ策ヲ案ジ,正貨ノ濫出ヲ妨止スルト同時ニ,海外ニ於ケル軍費仕払上最便利ナル方法ヲ講ジ,以テ皇軍日常ノ経費ヲ支弁スルニ遺憾ナカラシムル〉としている。ただ,軍票が純粋に徴発証券にとどまることは少なく,ある程度は通貨的機能を果たすものである。〈支那事変軍票〉の場合,戦局の展開に伴い日本の占領地域において一般通貨性をかなり具備することとなったとされる。そこで,軍票は軍の威力を背景に通用するとはいえ,長期にわたり使用する場合には,その価値維持,流通促進のために,軍票による取引励行,軍票売買の統制,物資供給による軍票の回収促進,軍票相場維持のための市場介入,などいわゆる軍票工作の努力が必要となるのが通常である。

 軍票は清朝末期に革命軍,軍閥が徴発証券的に使用したが,第1次大戦中にドイツ軍が大々的に発行するに至った。英米軍は金準備増大を背景に戦場においてだいたい自国通貨を使用したが,ドイツ軍は,フランス,ベルギーポーランドルーマニアラトビアリトアニア等の各地で軍票を使用した。その方法は,たとえばポーランド等においては現地感情等を考慮して,発券銀行として貸付金庫を設立し,ルーブル紙幣(貸付金庫証券)を発行させて,軍票として用いるとともに一般に使用させるというものであった。オーストリア軍もイタリア占領地で占領地リラなる軍票を発行した。第2次大戦でも各種のやり方で軍票が発行された。

 日本では,西南戦争時に西郷軍が発行した軍用紙幣,いわゆる西郷札がその先駆とされる。政府発行の軍票は,日清戦争時が最初のケース(未使用のまま回収)であり,日露戦争,青島(チンタオ)出兵,シベリア出兵,日華事変,太平洋戦争の際に例がある。前3者の軍票は銀兌換(だかん),シベリア出兵軍票は金兌換を建前として通用の安心を図ったが,日華事変以降は金,銀の字を冠しなくなり,管理通貨的性質が強まった。また,1940年中国の日本占領地で汪兆銘政府の中央儲備(ちよび)銀行が設立され,儲備券の流通拡大とともにその軍票化が進行した。南方占領地においては,従来の円表示にかえて現地通貨表示の軍票を発行したが,42年南方開発金庫が設立され,その南発券(南方開発金庫券)が軍票の役割を果たすようになった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「軍票」の意味・わかりやすい解説

軍票
ぐんぴょう

戦争に際して主として占領地で軍の作戦行動に必要な物資や労力への支払い、軍人・軍属の俸給・給与の支払いに用いるため、政府または軍が発行する特殊通貨。軍用手票(しゅひょう)、軍用切符、軍札、仕払証票とも称し、軍票は軍用手票の略。通貨単位は、本国通貨単位の場合と占領現地通貨単位の場合とがあり、概して後者の例が多い。戦時に際し、占領地で本国通貨を使用すると、増発による本国通貨価値の低下および財政の混乱、現地流通の障害、通貨基準の違い、輸送困難などの弊害が生じるため、軍事予算とは別枠で新規のデザインで発行使用される。原則として終戦後、本国通貨により精算される決まりだが、発行国が敗戦のときには無価値となることがある。歴史的には19世紀、中国軍閥が使用し始め、第一次、第二次世界大戦で連合軍、ドイツ軍がそれぞれ発行した。

 日本では西南戦争に西郷軍が発行した西郷札が最初で、以後日露戦争、シベリア出兵、日中戦争、大東亜戦争などで使用した。大東亜戦軍票(大蔵省発行)の単位は、ペソ、センタボ(フィリピン)、ドル、セント(マレー)、ポンド、シリング(オセアニア)、ルピー、セント(ビルマ)、グルデン、ルピア、セント(インドネシア)などである。

[寺田近雄]

『太田保著『日本紙幣軍票図鑑』(1976・万国コインクラブ)』『寺田近雄著『日本の軍票』(1987・アド・ユニ、不二出版販売)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「軍票」の意味・わかりやすい解説

軍票【ぐんぴょう】

軍用手票の略。軍用手形,軍用切手とも。戦地もしくは占領地で軍費支弁のため軍隊または政府が発行する特別の紙幣。日本では日露戦争以来これを大規模に使用し,第1次大戦,シベリア出兵日中戦争などの時に円貨標示の軍票を発行し,第2次大戦では東南アジア各地で現地通貨の軍票を発行した。
→関連項目紙幣

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「軍票」の解説

軍票
ぐんぴょう

戦地・占領地において軍事行動にともなう物資の調達・労賃の支払いなどに使用される特殊通貨の総称。軍用手票(しゅひょう)の略。古来戦争では略奪がほしいままに行われたが,近代国際法の確立にともなって取り締まられるようになった。1907年(明治40)のハーグ平和会議で陸戦法規条約が採択され,物資は軍票を代価に強制購買されることになり,第1次大戦中から軍票使用が普及した。日本の軍票は日清戦争では間に合わず,日露戦争から使用されるに至り,シベリア出兵や日中戦争・太平洋戦争でも使用された。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軍票」の意味・わかりやすい解説

軍票
ぐんぴょう
military currency

戦争に際して,占領地域で軍費調達のために政府あるいは軍によって発行される紙幣。軍用手形,軍用切手などとも呼ばれる。日本では西南戦争で,西郷軍が「西郷札」といわれる一種の軍票を発行したのをはじめとし,日露戦争以後盛んに発行された。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

普及版 字通 「軍票」の読み・字形・画数・意味

【軍票】ぐんぴよう

軍用券。

字通「軍」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android