農村住居(読み)のうそんじゅうきょ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「農村住居」の意味・わかりやすい解説

農村住居
のうそんじゅうきょ

住居(住宅)を建てる環境によって、都市住居(住宅)、農村住居(住宅)、漁村住居(住宅)などに分類し、農村に建てる住居を農村住居というが、一般に農家の住居を農村住居という。

[青木志郎]

歴史

農村住居の変遷は、史料が少ないためとくに中世以前は明らかでないが、その原型は、稲作農業が始まったといわれる弥生(やよい)時代の遺跡にみられる竪穴(たてあな)住居や平地住居であるとみるべきであろう。中世に入ってもこの形は、都を遠く離れた農村地方では、一般的な農家の住居型として存在していたものと思われる。広い土間とわずかな低い板敷きからなる簡単な平面で、規模も20平方メートルぐらいのものが多く、きわめて狭い住居であった。生活は原始的な土座生活で、板敷き部分は寝る場であり、のちに壁で囲み、「ちょうだい」とか「なんど」とか「ねま」とよび、独立した部屋となり、空間分化が行われるようになった。

 近世に入ると土座生活は床座生活に移行し、板敷きおよび畳の床座をもつようになる。「にわ」とよばれる土間と「ねま」の住居に、床上の日常生活の場として「おうえ」「なかのま」「じょうい」とよばれる部屋がとられるようになる。次に武家住宅の影響を受けて「でい」「ざしき」とよばれる接客の部屋がとられる。また、「おうえ」の北側に台所とか勝手という日常生活のための部屋がとられ、四つ間型とよばれる田の字形平面が中世後期に成立した。この田の字形平面は、地方の自然環境や生活慣習によりその地方独特の平面型を形成し、東北地方の曲屋(まがりや)、関東地方の喰違(くいちがい)型、新潟県地方の中門造、岡山県地方の広間型などがそれであり、現在も古い農家住居にこれらの平面は受け継がれている。農家の構造竪穴住居から発展したため、掘立(ほった)て柱(ばしら)で草屋根の簡単なものであったと思われる。それがしだいに礎石が置かれるようになり、19世紀に入って土台が用いられるようになった。屋根は切妻か寄棟の草葺(ぶ)きがほとんどで、地方によっては板葺き石置き屋根のものもあった。

[青木志郎]

特徴

農村の生活では、生産生活が家族生活に優先し、地主小作本家分家という身分階層が生活を規制し、村落共同体的性格の強い集落生活が家族生活に優先した。また、大家族主義で二夫婦三世代の複合家族が多く、封建的な家父長家族制度のもとに個人生活は「家」に埋没していた。

 農村住居はこのような生活を背景として、いくつかの特徴を有する。第一に農作業中心の住居であること。稲作農家では稲の収納、脱穀調整、収穫物の収納、藁(わら)作業から家畜の飼育まで、農作業の多くが住居の中で行われ、住居面積の30~40%、多いものは60%を占める広い土間が住居にとられていた。また、養蚕農家、タバコ農家では、土間ばかりでなく、蚕室、乾燥場として床上部分まで使用するなど、生産空間が生活空間に優先していた。第二に格式的な住居であること。分家は、本家より大きな住居を建てられないとか、地主と小作では屋根の構造が違うなど、住居が家の身分・地位などの権力の表現となり格式をもっていた。第三には接客中心の住居であること。封建的な集落生活は、住居に冠婚葬祭や集落の人寄せのための接客空間を要求し、南側のもっともよい位置に床をもった続き間の「座敷」が優先してとられていた。第四に家族生活軽視の住居であること。家族の日常生活の場である勝手、納戸(寝室)は裏の生活として北側にとられ、また、個人の生活の場としての個室さえもとられていない。また、台所、収納設備なども不備で、浴室、便所は住居内になく、家族の日常生活にとって不合理な住居であった。

[青木志郎]

現代の農村住居

第二次世界大戦後の農業技術の進歩と社会の発展による農村生活の変革は、生活の容器である住居を大きく変えてきている。

 現代の農村住居は、〔1〕生産と生活の場の分離、〔2〕接客の場より家族生活の場の重視、〔3〕個人生活の場の確保、〔4〕家事労働の能率性・合理性の重視、〔5〕設備の近代化、などの考え方のもとに、〔1〕生活空間としての土間の縮小、〔2〕南面に快適な居間の確保、〔3〕夫婦室、子供室、老人室など個室の確保、〔4〕台所の諸設備の充実、〔5〕浴室、便所の住居内の設置、〔6〕便所の水洗化、〔7〕室内の冷暖房、などが行われ、近代化されてきている。都市住居と比較して宅地・住宅規模が大きく、居住水準の高い住居も少なくない。構造は木造のみでなく鉄筋コンクリート造、鉄骨造もみられるようになり、また、屋根や壁などに新建材が用いられ、形態も多様化してきたが、最近、緑の自然が多く美しい農村景観を破壊する住居が多いことが問題となっている。

 欧米の農村住居の古いものは、日本と同様に農作業空間が住居の中に含まれているものが多いが、空間的に明確に分離されており、また、個室が確保されている点が異なる。近世以後は中農、小農が減少し、機械化による大規模農業の富農層が増加し、住居の規模も大きく、近代化されている。

[青木志郎]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例