改訂新版 世界大百科事典 「農業改良普及制度」の意味・わかりやすい解説
農業改良普及制度 (のうぎょうかいりょうふきゅうせいど)
農業を改良し農家生活の改善を進めるため,農業者に対して技術・知識を普及指導する制度として,農業改良助長法(1948公布)に基づき創設された。日本の農業経営の特質から,農業の発展を図るには農業生産と農家生活の両面から一体的に改善していくことが重要であり,そのために必要とする技術課題をとり上げて,農業者の自主性を生かしながら指導援助していこうというものである。制度発足以来,社会情勢や農業事情の変化にともなって内容には変遷がみられるが,農政の基本的課題に即して農業者および農業者の集団を指導し,先進的モデルを育成しながら,その成果を広く波及させてきた。農業指導の沿革をみると,現行制度が教育的手法によって農業者を育てるという立場に立っているのに対して,趣旨や仕組みはやや異なるものの,古くから官庁組織あるいは農業団体によって技術の奨励・伝達が行われてきた。ちなみに諸外国では重要な施策として古い歴史をもつ国も多く,類似の制度も含め現在110余ヵ国で実施されている。
普及指導活動を行うための普及職員として,改良普及員が一定の基準により全国的に配置されている(1983年現在1万1330人)。改良普及員は専門によって,農業技術指導を担当する農業改良普及員(同9381人)と農家の生活技術指導を担当する生活改良普及員(同1949人)とに分かれている。改良普及員は,都道府県が行う一定の資格試験合格者のなかから都道府県の職員として任用され,直接農業者に対して普及指導に当たることを役割としている。彼らは巡回指導,農場展示,出版物の配布,講習会開催等により教示,実地展示を行うほか,農業後継者たる農村青少年に対する研修教育,農村青少年団体の指導者育成等の普及指導活動に当たっている。この場合,農業と生活,または専門領域を異にする複数の改良普及員をもってチームを編成し,数市町村を一区域とする地域を分担しながら,現地の課題に総合的に取り組む等の活動体制をとっている。また普及指導活動を有効に進めるため,ほかに普及職員として専門技術員が全国に置かれている(1983年現在747人)。専門技術員は,国で行う資格試験合格者のなかから都道府県職員として任用され,試験研究機関,市町村,団体,教育機関等と密接な連絡を保ちながら,専門の事項や普及指導活動の技術・方法について改良普及員を指導する役割を果たしている。さらに都道府県には,普及組織として農業改良普及所が設けられている(1983年現在716ヵ所)。制度の発足当初は全国で2120ヵ所を数えたが,農業経済圏の広域化,農業経営の専門化や農業技術の高度化にともない,順次広域的体制に整備されてきた。平均して普及所1ヵ所当り5市町村を所管しており,改良普及員約18人が配置されている。
農業改良普及制度は法制上〈協同農業普及事業〉と呼ばれ,国と都道府県が協議しながら,両者が協同して行う事業という性格をもっている。制度の運営に当たっては,国が事業の運営指針を定め,都道府県はこれを基本として,都道府県の実情や現地からの要請に応じて事業の実施方針を定めることにしている。普及指導活動の基本的課題として現在次の5項目が示されている。(1)高度・総合技術の迅速な普及,(2)地域農業振興のための組織化推進,(3)農業者の健康の維持,増進,(4)優れた農業後継者等担い手の育成,(5)活力ある農村社会の形成。農業改良普及制度運営のために要する経費は,国と都道府県で負担しており,国はこの事業を助長するために都道府県に対して,〈協同農業普及事業交付金〉を交付している。
執筆者:品田 正道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報