日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業者年金基金」の意味・わかりやすい解説
農業者年金基金
のうぎょうしゃねんきんききん
老後生活の安定・福祉の向上という公的年金に共通する目的とともに、年金事業を通じて農業者の確保に資するという農業政策上の目的をあわせもつ、農林水産省所管の独立行政法人。独立行政法人農業者年金基金法(平成14年法律第127号)に基づき、2003年(平成15)に設立された。
前身は、1970年(昭和45)制定の農業者年金基金法(昭和45年法律第78号)に基づいて設立された特殊法人である。当初の法律は、経営委譲年金などの給付を行うことにより、専業的農業者の老後生活の安定とともに、満期の経営委譲を通じた農業経営の近代化と農地保有の合理化の促進を目的としていた。しかし、その後の農村における著しい高齢化や農業の担い手不足などの進展と、加入者の減少による年金財政の悪化などを背景として、2001年に抜本的な改正が行われた。改正では、第一に、農業の持続的発展という食料・農業・農村基本法の基本理念に即して、政策目的を農業の担い手の確保に転換し、加入要件を農地の権利名義を有する者から農業に従事する者に改めた。第二に、財政方式について、現役世代の保険料を引退世代の年金にあてるという賦課方式から、納付された保険料を積立・運用して年金を支払う方式に変更した。第三に、受給者などに係る年金給付について適正化を図ったうえで、その費用を国庫で負担するなどの措置を講じた。これらの制度は、2003年に独立行政法人化された現在の基金にも引き継がれている。現在の制度の概要は以下のとおりである。
(1)加入者 任意加入制で60歳未満の農業に従事する者であれば誰でも加入することができる。
(2)保険料 政令で定める上限額と下限額との間で加入者が決定・変更する。
(3)財政方式 積立方式とする。
(4)農業者老齢年金 原則として65歳に達した加入者に対して、納付した保険料とその運用益を加算した額を基礎とした年金を支給。
(5)特例付加年金 意欲ある農業経営の担い手に対しては国庫補助を行い、国庫補助額とその運用益を加算した額を基礎とした年金を支給。支給要件は、65歳到達、20年以上の加入、農業経営の廃止である。
[山崎泰彦 2016年9月16日]
『厚生統計協会編・刊『保険と年金の動向』各年版』