日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業農村整備事業」の意味・わかりやすい解説
農業農村整備事業
のうぎょうのうそんせいびじぎょう
農用地の改良、開発、保全および集団化に関する事業で、農村の生活環境を整備する事業も含まれる。土地改良法、独立行政法人水資源機構法、独立行政法人緑資源機構法などに基づき公共事業として行われ、農業の生産基盤である水、土地を開発整備することを目的としている。
このような事業は、香川の満濃(まんのう)池などの溜池(ためいけ)をはじめとして、見沼(みぬま)代用水、葛西(かさい)用水、箱根用水など灌漑(かんがい)用水の開発、児島(こじま)湾や有明(ありあけ)海の干拓など、わが国では古くから行われてきたが、1899年(明治32)には耕地整理法が制定され、農地の区画整理や農業水路の整備なども行われるようになった。
第二次世界大戦後の1949年(昭和24)には、耕地整理法が土地改良法にかわり、戦後の食糧難を解決する食糧増産対策として推進された。61年に農業基本法が制定され、労働生産性の向上、農業構造の改善も目標となり、土地改良は、国の予算項目では食糧増産対策事業から農業基盤整備事業にかわった。69年農業振興地域整備法などが制定、74年には国土庁発足に伴い農村整備課が設置され、農村の生活環境整備とともに農業、農村の多面的機能が重視されるようになった。91年度(平成3)からは予算項目の名称は農業農村整備事業となり、99年には農業基本法の新基本法である食料・農業・農村基本法が制定され、同事業は農業の持続的な発展、食料の安定供給、農村の振興、多面的機能の発揮などを目的に展開されている。2001年現在、同事業の予算は一般会計予算の約1.5%、災害復旧事業を除く一般公共事業費の約13%を占めている。
農業農村整備事業のおもな内容をあげると、次のとおりである。
(1)農地整備 圃場(ほじょう)整備、暗渠(あんきょ)排水、客土、交換分合などで、既存の農用地を改良し、土地生産性の向上、労働生産性の向上を図る。
(2)灌漑排水 ダムや取水堰(ぜき)などによる水源開発、用水路や排水機の設置などで、農業の基礎である水利条件を改善する。
(3)農用地造成 開墾や干拓により農用地を開発する事業。わが国では市街地化により毎年数万ヘクタールの農用地がつぶれつつあり、食糧の安定的供給のため、草地や畑の開発を行っている。
(4)農道整備 農産物流通などのための農道を整備する。
(5)農地防災 雨による湛水(たんすい)排除、地すべり防止、農地侵食防止、カドミウムなどによる汚染農用地の復原、農業用水の水質汚濁対策などの事業。
(6)農村総合整備 農業生産基盤と農村の生活環境とをあわせ整備する事業で、農業集落道、営農飲雑用水、農村公園などの設置を進めている。また、中山間地域の総合的整備を行う。
(7)基幹的農業水利施設の形成 食料の安定供給の確保、農業の持続的な発展のため、水利施設や土地改良施設を計画的に更新整備する。
[小出 進]