土地改良(読み)トチカイリョウ

デジタル大辞泉 「土地改良」の意味・読み・例文・類語

とち‐かいりょう〔‐カイリヤウ〕【土地改良】

湿田の排水、用水改良、畑地灌漑かんがい耕地整理などによって、土地の性質を改良すること。

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改訂新版 世界大百科事典 「土地改良」の意味・わかりやすい解説

土地改良 (とちかいりょう)

土地を農業的に,かつ永久的に利用する目的で,資本を投下し,農地の開発,改良,保全などを行う経済行為をいう。土地改良の理論的形態は,大別すると三つある。第1の形態は,土地の自然的豊度を不生産的にしている障害を人工的に除去,より優れた生産機能を土地に発揮させる土地改良で,用水不足の土地に必要な用水を人工的に導く用水改良,低湿な土地の過剰水を排除する排水改良,土壌改良のために他の場所から目的にかなった土壌を搬入・散布する客土などがこれに該当する。この形態の土地改良が実施された土地には,優等地と同じ豊度条件が与えられるので,仮に農業技術の進歩がなかったとしても,収量は増加し,土地生産性も向上する。したがってそこに充当された農業資本はより生産的になる。第2の形態は,区画形状の変更による大区画圃場の造成,交換分合による圃場の集団化,農道の整備等により,高性能の農業機械の導入を容易にする土地改良で,これにより農業労働時間は節減され,労働生産性も向上する。この形態の土地改良は,第1の形態とは異なり,農業技術の進歩と結びつくことによって,はじめてその投資効果が期待できる。もっとも,二つの形態の土地改良は,実際には一体化して実施されることが多いので,農業生産の場において両者を区別することはむずかしい。第3の形態の土地改良は,山林原野の開墾や湖沼,海面の干拓など,農畜産物の需要増にこたえると同時に,生産性の高い大規模経営も創出するために実施される農用地開発である。

日本農業の歴史は,土地改良のために費やされた人間労働が土に刻みこまれてきた歴史でもある。おそくとも古墳時代には,溜池を築造し,小さな河川から水を引くという方法で水田の開発が進んだ。しかし,大河川流域の平野で水田の開発が本格化するのは,乱流していた川筋を一定にし,水害を防御しうる治水技術が登場してくる戦国末期から江戸時代前期にかけてである。江戸幕府成立前から開始され,幕府成立後も継承された利根川瀬替え工事は,その代表例であって,これらの新田開発により,大河川流域の平野は大水田地帯に変貌し,今日の農業水利施設体系の原型も整えられた。江戸時代前期の新田開発は幕府,藩によって行われたが,中期以降になると町人請負の新田開発が多くなった。いずれも,その目的は年貢,小作料の増徴にあり,農民の得るところは少なかった。

 明治期以降の近代的土地改良が出発するのは,1899年の耕地整理法の成立以降である。これにより,土地所有者だけで構成される耕地整理組合が組織され,みずから資金を調達した地主層の主導による土地改良が各地で活発に行われた(〈耕地整理〉の項参照)。しかし,大正中期になると小作争議が頻発して小作料引上げがむずかしくなったことや,米価や土地価格の停滞,下落などで土地改良に対する私的投資の経済的魅力が失われ,地主主導型の土地改良は伸び悩んでくる。このことが引金となって,1919年の開墾助成法,23年の用排水幹線改良補助要項が制定された。これらを機に国家が土地改良に介入する体制がつくられ,土地改良に対する国家の財政資金が本格的に,かつ大規模に投入されるようになった。かかる土地改良政策体系が成立した目的は,第1に1918年の米騒動で顕在化した米不足対策,第2に小作争議の沈静化による地主・小作関係の沈静化にあったといわれるが,米の増産につながる土地改良への国家の介入は,これらの目的に合致した有効な政策手段であった。以後,昭和初期の農業危機対策としての救農土木事業,戦時経済下の食糧増産のための土地改良の実施などで,国家の土地改良政策はしだいに強化されていく。

 第2次大戦後になると,土地改良は困難な食糧事情を反映して重要な国策となり,膨大な国家資金が投入された。かかる政策に法的根拠を与えたのは,後述する1949年制定の土地改良法である。同法により,農地改革創設された自作農が土地改良の直接的担い手となった。地主的土地所有から解放され,土地改良の増収効果をみずからの手中に収めうるようになった彼らは,戦前にもまして大規模化した国家財政資金の援助を受けながら,土地改良を積極的に推進した。55年1240万t,67年1450万tの米の収穫量の実現にみられるように,米の国内自給体制が確立したのは,そのことによるところが大きい。土地改良への膨大な国家財政資金の投入は,工業生産を回復させるうえでも必要とされた。1950年代前半には食糧輸入の外貨支払額が輸入総額の20%前後を占め,工業用原料の輸入を圧迫したので,〈輸入圧力軽減のための食糧増産〉は,戦後日本資本主義の重要課題であった。土地改良による米の増産は,食糧輸入のための外貨を節約し,低い米価が労賃を抑制する効果をもったので,日本資本主義の資本蓄積を可能にし,高度経済成長路線の推進を容易にしたことも見落とせない。だが,50年代までの土地改良には,第1に敗戦直後の緊急開拓で耕地拡大が進められたことを別とすれば,水田だけが重視され,畑・草地などの土地改良が手薄だったこと,第2に米の増産を主眼とした第1の形態の土地改良が重視され,労働生産性の向上に結びつく第2形態の土地改良が軽視されたことなどの問題があった。もっとも,60年代に入ると,第2の形態の土地改良である圃場整備事業,あるいは,第3の形態の土地改良事業である草地改良事業や畑地灌漑かんがい)事業が活発に行われるようになった。前者の動きは,高度経済成長による農業労働力の農外流出やトラクター田植機,自脱型コンバインなどの高性能機械の普及と結びつき,また,後者の動きは畜産物,果実,野菜の需要拡大にこたえようとするものであった。同時に,これらの動きは,農政の方向転換による土地改良政策の軌道修正とも結びついていた。61年制定の農業基本法により,それまでは米中心の食糧増産一本やりだった農政の方向は,選択的拡大,生産性の向上,農業構造の改善に転換し,これを受けて,63年の圃場整備事業の創設,64年の土地改良法改正が行われ,上記の動きを促進した。さらに,72年の土地改良法改正以後は混住化してきた農村の生活環境の整備を総合的,計画的に行う農村総合整備事業も重視されるようになった。

土地改良法は,農地改革が一段落した1949年に制定された。農地改革の理念を受けた同法は,自作農を基盤とした土地改良制度の整備,政策の展開を進めるため,土地所有者中心の耕地整理法に代わって制定されたもので,自作農の申請にもとづいて成立する土地改良事業を,適正かつ円滑に実施するうえでの必要事項を定めた事業実施法である。この法による土地改良事業の種類は,(1)土地改良施設の新設,管理,廃止または変更,(2)区画整理農用地の区画形状の変更),(3)農用地の造成,(4)埋立てまたは干拓,(5)農用地または土地改良施設の災害復旧,(6)交換分合,(7)農用地の改良または保全のために必要な事業(客土,暗渠(あんきよ)排水,床締めなど)の七つである。土地改良事業の施行は,(a)土地改良区による施行,(b)国または都道府県による施行,(c)農業協同組合による施行,(d)事業参加資格者数人の共同による施行,(e)市町村による施行の五つの場合があり,土地改良法は,それぞれの場合についての事業の開始と実施の手続などを規定している。いずれの場合も受益農民たちの申請にもとづく事業であり,また事業によって農民たちに私的利益が生まれるという見地から,受益面積20ha以上の事業は一般に補助事業とされている。1964年の土地改良法の一部改正により,土地改良事業を長期の見通しの上に立って計画的に実施するため,10年を1期とした土地改良長期計画が策定されている。93年度予算から出発した第4次土地改良長期計画では,2002年度までの10年間で農用地総合整備事業,基幹農業用用排水施設整備事業,防災事業,農用地造成事業などに総額41兆円が投入されることになっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「土地改良」の意味・わかりやすい解説

土地改良
とちかいりょう
land improvement

農業生産性の向上を目的として、土地の物理・化学条件、区画形状などを農業土木学的手法を用いて改良することで、灌漑(かんがい)排水(ダム、頭首工(とうしゅこう)、用排水路改修、ポンプ、暗渠(あんきょ)排水、温水施設)、区画整理、客土など既耕地の改良と開拓、草地改良、干拓など農用地の開発ならびに土壌侵食防止など農用地の保全に大別される。さらに近年では、農村地域の混住社会化に伴って農村の生活環境の整備も、これら土地改良と一体的に行われるようになっている。

 農業の生産手段のなかでも、とくに自然によって与えられる土地と水は、農業機械、肥料、品種改良、その他営農のための技術改良の効果を十全に発現させる基礎的条件をなす。このため、土地改良すなわち土地と水にかかわる生産条件の整備は「農業基盤整備」とも称されて、他の農業生産手段の改善措置と区分されて考えられている。

 土地改良は日本では水田農業の発展とともに古来営々として継続的に行われてきた。溜池(ためいけ)や条里制など古代における土地改良の成果が、代々の営農によって維持されて、今日に至るまでなおその効果を発揮しているのが認められる。このように、われわれが普段見慣れている農村地域の自然風物のうち、人の手の加わらないものはなく、河川、道路、水田、畑など、農耕と土地改良によって改造され保全されてきた自然こそ今日の国土の大半を占めているといっても過言ではない。

 土地改良の農業生産における効果は、次の二つに分かれる。第一は土地生産性の向上と安定である。土地改良事業のうち灌漑排水事業がこの効果をよくもたらす。第二は労働生産性の向上である。とくに区画整理や農道整備、乾田化などの土地改良事業によって農業の機械化が進展し、農業生産における投下労働時間の著しい減少が図られる。とくに近年の米需給関係に対応するために、水田を畑地としての高い生産性を兼ね備えた耕地(汎用(はんよう)耕地)にすることも土地改良に強く求められる課題となっている。

 土地改良は一定の区域の土地と水を対象とする公共的事業であり、土地のつながりや水利系統により関係者が共同して事業の実施にあたる。このため事業を実施するには受益農家による申請が必要で、同時に区域内の全受益農家の3分の2の同意が必要とされる(1949年制定の土地改良法)。受益農家は、土地改良法に基づく一種の公共組合である土地改良区を結成し、この土地改良区が土地改良事業の実施や、その負担金の徴収、造成された土地改良施設の維持管理などを行う。土地改良が、国民食糧の安定確保、水・土地など国土資源の有効かつ適切な開発・保全などに寄与するとの観点から、国および県など地方公共団体による助成の対象とされて各種補助制度が設けられている。

 昨今の農村における混住社会化の進展によって、農村地域における土地利用秩序の形成と、生活環境および生産基盤の整備との調和ある推進が必要となっている。土地改良事業は、農用地の改良と同時に、宅地、公共用地など非農用地の創設が可能であり、他の公共事業計画と一体的に実施されることによって、農村における秩序ある地域開発と生活環境整備の推進に資する事業としての性格を強くしている。

[千賀裕太郎]

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世界大百科事典(旧版)内の土地改良の言及

【土地区画整理】より

…しかし建物移転や用地買収を強引に行ったので市民の協力が得られず事業は進展しなかった。また,当時は農業の面で土地改良を行う必要から耕地整理が始められ,土地の交換分合によって土地整理を進める方法が行われていた。これらの経験が近代的な都市行政に用いられて日本独自の土地区画整理方式による都市計画事業が制度的に成立した。…

【農業】より

…第2次大戦後,これらの諸国はほとんどすべて独立して,自立した経済発展の道を歩むことになったが,今日なお,その経済発展は依然として不十分で立ち遅れ,これと結びついて農業の技術的・経済的発展も,一般に著しく不十分のままにとどまっている。物的,技術的な側面では,農業改良のための社会資本投下の不足などのため,土地改良や灌漑・排水施設など,農業生産基盤の整備・充実が著しく立ち遅れており,栽培技術などの技術改善も不十分である。社会経済的側面についても,旧来からの共同体的な生産形態が残存しているとか,一部少数の富裕な階級・階層が土地や生産手段の多くを支配しているなど,社会制度や農地制度(農地の所有・利用制度)の面で,なお大きな問題を残している場合が少なくない。…

※「土地改良」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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