近隣集団(読み)きんりんしゅうだん(その他表記)neighborhood group

日本大百科全書(ニッポニカ) 「近隣集団」の意味・わかりやすい解説

近隣集団
きんりんしゅうだん
neighborhood group

近隣結合に基づく集団形態をさす。地区集団、地域集団などと同義に用いられる場合もある。日本の近隣集団の典型としては、町内会などがあげられる。独自の歴史的経過と制度的枠組みをもつ町内会などに対して、都市化・近代化の進展をみた都市的地域においては、居住者の自発的意志に基づくさまざまのサークル、クラブ型の近隣集団の誕生が促されている。同一近隣内における居住を契機とする親睦(しんぼく)、相互援助、学習、問題解決(紛争処理その他)などの領域の広がりがみられる。近隣生活の楽しみあるいは苦しみをともに担い合う(共苦―共楽)居住者の諸活動といえるが、既成の町内会―隣組などに比べて自発的で、柔らかい集団形態である。最近では、同一近隣という「場所」placesより、むしろ場所を磁場とする人的結合の網の目という「ネットワークス」networksを重視する傾向にある。

 アメリカでは、「都市化と近隣集団」のテーマのもとに、都市住民の各種近隣集団への参加の量と程度を問う実態調査が多い。とくに大都市新郊外地域では、住民が近隣集団参加を回路として緩やかな絆(きずな)=人的結合の網の目に触れ合うと同時に、地域への帰属感の強調が図られている。系譜的には、コミュニティ計画の流れをくむ近隣住区計画とこの近隣集団とは、概念的にもセットをなしている。「自然の緑・太陽・空間」「生活環境施設の充実」「人間的交流と参加機会の提供」などの理念を近隣単位に具体化を図るペリーClarence Arthur Perry(1872―1944)らの近隣住区理論(ネイバーフッド・セオリーneighborhood theory)は有名である。

[奥田道大]

『奥田道大他著『コミュニティの社会設計』(1982・有斐閣)』『金子郁容著『コミュニティ・ソリューション――ボランタリーな問題解決にむけて』(1999・岩波書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「近隣集団」の意味・わかりやすい解説

近隣集団 (きんりんしゅうだん)
neighborhood group

居住の近接性を契機として形成される集団。アメリカの社会学者C.H.クーリーは第1次集団の具体例として家族,遊戯集団とともに近隣集団を掲げ,人類集落の歴史上,この近隣集団がつねに個人の感情交流と相互扶助の場となっていたと説いている(《社会組織》1909)。しかし,彼は現代アメリカではしだいに崩壊し,とくに都市において近隣は単に地理的空間の問題にすぎない場合も生じてきていると指摘している。鈴木栄太郎は日本の農村で〈近隣は組織ある集団として厳に存し,いろいろの機能を有している〉(《日本農村社会学原理》1940)と述べ,この状況は今日でもあまり変わっていないとする。それは一般に〈〉と呼ばれ,地域的諸行事,共同作業,相互扶助を行う場合の基礎単位として機能しており,近隣を無視しては生活の維持が困難となる。これに対して住民の流動性が高く行動範囲が拡大している都市では,近隣を無視した生活も可能であり,クーリーの指摘した崩壊も起こってくるが,すべての住民が近隣と没交渉で暮らすというわけではない。実際に多くの住民は何らかの近隣関係を保っており,うちとけたつきあいや日ごろの助け合いなど,かなり緊密な関係をもっている。子どもを中心としておもに主婦によって形成される近隣関係や人口の高齢化にともなって老人を中心に形成される近隣関係などがその例である。これらの場合,関係者は共通の問題・関心事を抱えており,社会の階層,職業などの別を超越して形成されている。しかし,これらの近隣関係に成年男子が参加している場合は極めて少ないといえよう。一般的に,成年男子は近隣集団に参加することが少なく(商店街などは成年男子中心の近隣集団の例である),多くの場合,家族を含めた形での職縁による集団のほうが大きな意味をもっているといえよう。なお,制度的な近隣集団として町内会があり,これに類似するものとしてフィリピンのバランガイ,香港の街坊会などがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「近隣集団」の意味・わかりやすい解説

近隣集団
きんりんしゅうだん
neighbourhood group

居住の近接を契機にして形成される集団で個人よりも世帯同士の結合を主軸とする。農村では地理的条件に従って自然発生的に形成される場合が多く,組と呼ばれる。都市では婦人会や町内会のように行政的地区集団に似て人為的に成立する場合が多い。

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