改訂新版 世界大百科事典 「通商院」の意味・わかりやすい解説
通商院 (つうしょういん)
Casa de Contratación de las Indias
スペインの植民地統治機関の一つ。インディアス通商院,インディアス商務院とも訳される。新大陸との貿易を王権の直接的な統制下におくことを目的として1503年セビリャに設立された。1717年カディスへ移転されるが,18世紀末に廃止されるまで,行政・司法の統轄機関インディアス枢機会議とともに,スペインによる排他的植民地政策を支える中心的役割を演じた。通商院の権限は1511年,30年の勅令によってほぼその法的基盤が確立されたが,権限と任務は以下のとおり多岐にわたっている。
(1)貿易管理業務 新大陸へ渡るすべての船舶は通商院の許可を必要とし,出航地は18世紀中ごろまではセリビャに,新大陸の入航地は18世紀初頭までハバナ,ベラクルス(現,メキシコ領),カルタヘナ(現,コロンビア領),パナマなど数港に限定されていた。1543年フロータス制の成立以降は,護衛艦に守られた船団(フロータスflotas)を組むことが義務づけられ,年2回の出航時期も指定された。こうしてフロータスによって搬出・搬入される物資もすべて通商院の統制下におかれたが,なかでも新大陸産の貴金属(うち20%は五分の一税として国庫に収められた)は全植民地時代を通じて最も重要な品目であった。(2)関税業務 王権は新大陸貿易に対しアルカバラalcabala(取引税)とアルモハリファスゴalmojarifazgo(輸出入関税)の二つの税を課した。1566年までは,スペインからの輸出品については合計で7.5%,新大陸からの輸入品には15%,同年以降それぞれ15%,17.5%の従価税が課せられた。セリビャのコンスラードに委託した一時期を除けば,この徴税業務も通商院の任務であった。(3)出入国管理業務 新大陸貿易に従事できる商人はスペイン生れのスペイン人に限定されていた。また一般の植民者の渡航についても,外国人に対しては厳しい統制を行った。(4)訴訟審理 新大陸貿易にまつわる違法行為,公海上での不法行為に関する民事・刑事訴訟の審理を行ったが,死刑・切断刑については,インディアス枢機会議の判断にゆだねられた。(5)航海術の訓練 1508年通商院の役職の一つとしてピロト・マヨールpiloto mayor(主席航海士)が設けられて以後,海図・新発見地の地図の作製をはじめとする航海術の資料収集と研究,航海士の養成と資格認定も通商院の重要な任務の一つとなった。このほか,遺言を残さずに死亡した植民者の財産や植民地の国庫を管理する任務も通商院に与えられていた。
通商院の統制のもとに展開した新大陸貿易の独占体制は,スペイン本国の経済の衰退と植民地官僚の腐敗,17世紀中ごろに始まるオランダ,イギリス,フランスのカリブ海への進出と密貿易の拡大,それにともなう新大陸の貴金属の流出等によって危機を深め,1713年にはユトレヒト条約を通じてイギリスに新大陸市場の一部が開放され,18世紀中ごろにはフロータス制も廃止された。ヨーロッパ列強の圧力に加え植民地内部からもしだいに自由貿易を求める声が高まり,78年には自由貿易令の公布によって,イベリア半島の13港,新大陸の24港が開港され,3世紀近くにわたる独占体制の象徴としての通商院も,ついに90年廃止されることとなった。
→ラテン・アメリカ[歴史]
執筆者:清水 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報