日本大百科全書(ニッポニカ) 「通運業」の意味・わかりやすい解説
通運業
つううんぎょう
通運業とは、鉄道貨物輸送の両端の貨物取扱駅において、荷主と鉄道の間に介在し、鉄道輸送を補完し、発荷主戸口から着荷主戸口までの輸送を遂行する事業をさした。具体的には、荷主・貨物駅間での貨物の集貨・配達、貨車への積み卸しなどの物理的作業や鉄道貨物の取扱業務(事務的作業)から成り立っていた。
この法的根拠は、通運事業法(昭和24年法律第241号)にあり、通運業は免許事業であった。しかし、この法律は規制緩和の波のなかで、1989年(平成1)に廃止され、同年制定された貨物運送取扱事業法(平成1年法律第82号。2002年改正で貨物利用運送事業法に名称変更)のなかに吸収され、陸海空を含むすべての利用運送事業のうちの一つ、鉄道利用運送事業として位置づけられるようになった。また、通運事業法で行われていた規制も大幅に緩和された。なお、この新法のなかに通運の名が残る業務は、通運計算事業(鉄道取扱業者間の交互計算)のみであったが、それも2002年(平成14)の改正に伴い廃止となった。
鉄道貨物輸送が大幅に縮小し、かつ通運事業法の廃止にもかかわらず、「○○通運」という名前をもつ企業はいっこうに減少していない。これらの通運企業のうちで、日本通運のような大手や中堅業者は、すでに総合物流業者に転化しているし、中小業者はトラック運送業者や倉庫業者に特化(専門化)している。しかし、通運という名前は、長い歴史をもち、知名度と社会的信用性が高く、事実上、長い伝統をもつ物流業者を意味するようになっている。
[野村 宏]
『野村宏著『輸送産業』(1980・東洋経済新報社)』▽『廣岡治哉・野村宏編著『現代の物流』(1994・成山堂書店)』▽『日本交通学会編『交通経済ハンドブック』(2011・白桃書房)』