連事(読み)れんじ

改訂新版 世界大百科事典 「連事」の意味・わかりやすい解説

連事 (れんじ)

中世寺院における延年の芸能。従来は〈つらね〉と読まれることが多かったが,近年は〈れんじ〉と読まれている。《多聞院日記》永正2年(1505)5月4日条の延年記事中に〈連仕〉の表記が見えている。連事は問答歌謡とからなる素朴な劇で,2~3人の登場人物が崑崙山とか潯陽(しんよう)の江(え)とかの著名な地を尋ね,その地にちなむ詩歌を朗詠したりするが,ままその地にちなむ人物が登場するものもある。同じく劇の形態をもつ延年の風流(ふりゆう)に比べ歌謡性が濃厚で,台本には〈白拍子〉〈一頭〉〈同音〉〈甲一頭〉〈乙〉〈訓伽陀〉〈早歌〉〈下〉〈翁声〉と節の指定が豊富であるが,風流にあった舞の要素が連事にはほとんどない。台本としては,中世に延年が盛んだった大和の多武峰(とうのみね)に室町後期書写のものが22曲,ほかに江戸時代の《興福寺延年舞式》に収められた1曲が,現存するもののすべてで,曲名は《清凉山を尋ねたる連事》《補陁落を尋ねたる連事》のような類型性をもっている。連事は鎌倉時代から演ぜられていたと考えられるが,《興福寺延慶三年記》(1310)に〈連(つらね)猿楽〉と見えるのが最も古い資料で,以降,《法隆寺祈雨旧記》(1340)に〈竜田川ノミナ上ヲ尋タル連詞〉の記事が見え,《観応三年周防国仁平寺本堂供養日記》(1352)には〈当季題目花連事〉などと見えている。〈連猿楽〉と呼ばれているように,連事は世上に流行していた猿楽芸をとり入れたものであり,《勘仲記》弘安1年(1278)11月17日の殿上淵酔の〈列猿楽〉や,《弘安六年春日臨時祭礼記》の〈群猿楽〉などが連事の先蹤(せんしよう)と考えられ,延年の風流とともに〈能〉の成立過程を解明するための貴重な資料ともなっている。
延年
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「連事」の意味・わかりやすい解説

連事
つらね

中世の延年芸能の一種。「れんじ」ともいう。事の由来を言葉で長々と述べる芸。和漢故事題材とし,2,3人の演者が問答や歌で連ねる。その素朴な構成は,延年に連猿楽という名称もみられるところから,猿楽と関連があるとされる。歌舞伎にも「つらね」という雄弁術がある。歌舞伎十八番の『暫 (しばらく) 』の主人公が花道で述べる長い独白がその代表的なもの。美文調のせりふを,何人かで分担して述べる「渡りぜりふ」や,河竹黙阿弥の作品にある長い名調子のせりふなども,この「つらね」の変形とみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の連事の言及

【延年】より

…そして,時の経過とともに延年芸にはさまざまの意匠がこらされ,演ぜられる芸能の種類もしだいに増加していった。たとえば多武峰では6月の蓮華会の延年が盛大であったが,その蓮華会延年の室町後期における演目をみると,頌物,俱舎舞(くしやまい),切拍子,乱拍子,音取(ねとり),楽,朗詠,白拍子,開口,連事(れんじ),狂物,伽陀,小風流,大風流,鉾振(ほこふり)などがあり(1515年(永正12)の《蓮華会延年式目》),演目の増加と次第の整備がいっそう進んでいることがわかる。これを興福寺など他の寺院の室町期の演目に比較してみると,多少の出入りはあるが,大略は上記の多武峰蓮華会の延年式目に一致する。…

【問答】より

延年(えんねん)や猿楽能にも,一曲の見せ場を導くために問答を設定する場合がある。延年の大風流(おおふりゆう)では,問答によって走物(はしりもの)などの風流衆を導き,舞楽で納め,連事(れんじ)では白拍子(しらびようし)などの歌謡を導く。能では一曲のうちに〈問答〉という謡事(うたいごと)小段をもつ曲があり,とくに現在能では現在進行形の緊迫した対話で,一曲を進める場合もある。…

※「連事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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