連続体問題(読み)れんぞくたいもんだい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「連続体問題」の意味・わかりやすい解説

連続体問題
れんぞくたいもんだい

実数集合濃度に関する問題である。実数全体のつくる集合の濃度をℵ(ℵはヘブライ文字で、アレフと読む)で表し、連続の濃度あるいは連続体の濃度という。自然数の集合全体のつくる集合、自然数から自然数への関数全体のつくる集合、一つの線分上の点全体のつくる集合、一つの平面上の点全体のつくる集合、空間の点全体のつくる集合などは、すべて連続体の濃度をもつ。無限濃度は無限個あるが、選択公理のもとでは、これらに大小順序をつけて、ℵ0,ℵ1,ℵ2,……のように並べることができる。最小の無限濃度はℵ0で、これは自然数全体、あるいは有理数全体のつくる集合の濃度で、可算濃度といわれる。G・カントル対角線論法を用いて、連続体の濃度が可算濃度よりも大きいことを示した(1874)。「連続体の濃度は何番目の濃度であるか」あるいは「可算濃度ℵ0と連続体の濃度ℵとの間の濃度をもつ集合が存在するか」という問題が連続体問題である。「ℵ=ℵ1で、ℵ0とℵの間の濃度は存在しない」というのが連続体仮説である。カントルはまた、「集合Aの部分集合全体のつくる集合(Aのべき集合)の濃度はAの濃度より大きい」ことを証明した。このとき、「無限集合AとAのべき集合の濃度の間の濃度をもつ集合が存在するか」という問題を一般連続体問題という。「無限集合AとAのべき集合の濃度の間には濃度が存在しない」というのが一般連続体仮説である。これは、カントル自身をはじめ、多くの数学者が取り組んだ有名な問題で、点集合論とも関連して、集合論の中心的課題の一つであった。ゲーデルは、集合論の公理系と一般連続体仮説とは矛盾しないことを示した(1938)。さらにP・J・コーエンは、一般連続体仮説および連続体仮説のそれぞれの否定が、集合論の公理系と矛盾しないことを示した。この結果、連続体仮説、一般連続体仮説は、ともにその肯定も否定も、集合論の他の公理系からは証明できず、これらの公理系から独立であることがわかる。

[西村敏男]

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改訂新版 世界大百科事典 「連続体問題」の意味・わかりやすい解説

連続体問題 (れんぞくたいもんだい)
continuum problem

実数全体の濃度をcまたはℵで表し,連続の濃度もしくは連続体の濃度という。G.カントルは,対角線論法によって連続体の濃度は可算の濃度(自然数全体の濃度)aより真に大きいことを示した。さらに彼はa<b<cであるような濃度bをもつ集合は存在しないと予想し証明を試みたが成功しなかった。可算の濃度の次は連続体の濃度であるという仮説を連続体仮説という。カントル以降カントルの素朴な集合論を公理を使って再構成する公理的集合論が展開され,連続体仮説の正否をめぐって研究が続けられた。1940年,K.ゲーデルはツェルメロE.F.F.Zermelo(1871-1953)とフレンケルA.A.Fraenkel(1891-1965)によって提出された集合論の公理系がその内部に矛盾を含んでいなければ,この公理系(ZF公理系)に連続体仮説と選択公理をつけ加えたものも内部に矛盾を含まないことを示した。さらに63年,コーエンP.J.Cohen(1934- )は,ZF公理系と連続体仮説と選択公理は独立であることを示した。したがってZF公理系と選択公理を使って連続体仮説の正否を決定することはできず,連続体仮説を正しいとしても,正しくないとしても集合論を展開することができる。これは,ZF公理系は部分集合を作るのにも,少し条件を課しているので,素朴な意味での部分集合全体を考えることなく集合論の一つの体系が作れることになってしまったので,こういう結果になったのである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の連続体問題の言及

【集合論】より

…無限回操作を含むから,選択公理を認めるのは危険であるという考えもあるが,〈他の公理全体の系が矛盾を含まないなら,選択公理を加えた系も矛盾は含まない〉ことが証明されているから,選択公理は認めてもよいと考えられている。
[連続体問題]
 可算無限の濃度と連続体の濃度(実数全体の集合の濃度)との間に他の濃度は存在するか,というのが連続体問題である。もっと一般に,μが無限の濃度のとき,2μとμとの間に他の濃度があるかというのが一般連続体問題である。…

※「連続体問題」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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