進行性鼻壊疽(読み)しんこうせいびえそ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「進行性鼻壊疽」の意味・わかりやすい解説

進行性鼻壊疽
しんこうせいびえそ

進行性壊疽性鼻炎ともいう。ヨーロッパでは壊疽性肉芽腫(にくがしゅ)、アメリカでは悪性正中肉芽腫ともよばれている。壊疽性肉芽腫性病変が主として鼻腔(びくう)からおこり、これに隣接する骨を冒し、眼窩(がんか)、口腔、咽頭(いんとう)にも病変が進行する。高熱を伴い、呼吸器や泌尿器の障害を併発する予後のよくない疾患の総称である。かつては一つの独立疾患と考えられていたが、そのなかにはよく似た症状を呈するいくつかの異なった疾患、すなわち悪性リンパ腫、ウェゲナーWegener肉芽腫、悪性肉芽腫などが含まれていることが、現在ではわかっている。

[河村正三]

悪性リンパ腫

40~60歳代の男性に多い悪性腫瘍(しゅよう)で、全身の臓器やリンパ節に転移しやすいが、放射線療法や抗癌(こうがん)剤が比較的奏効しやすい疾患である。

[河村正三]

ウェゲナー肉芽腫

自己免疫疾患の一つで、鼻腔をはじめ、上気道あるいは肺の壊疽性肉芽腫性の病変と全身の壊死性血管炎と糸球体腎(じん)炎との三つの特徴的な症状をもつ疾患である。30歳前後の女性に多い。進行性で眼窩を冒し、眼球突出がおこり、口腔、咽頭、末期には頭蓋骨(とうがいこつ)内にも進展する。初期のものでは副腎皮質ホルモンが比較的有効であるが、再発しやすい。抗癌剤や放射線照射が奏効することも少なくないが、最終的には予後はよくない。

[河村正三]

悪性肉芽腫

前二者と異なり、その本態自身もまだ明らかでなく、腫瘍であるのかないのかも明らかでない。その理由は壊死性病変があまりに強いため、病理組織学的検索がきわめて困難なことによる。全身性転移は少ないが、局所の壊死の進行が非常に速く、細菌感染をおこしやすく、敗血症に似た間欠熱や高熱が出て全身衰弱になり、予後不良である。

[河村正三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

家庭医学館 「進行性鼻壊疽」の解説

しんこうせいびえそうぇげなーにくげしゅしょうひしゅりゅうがたてぃーさいぼうりんぱしゅ【進行性鼻壊疽(ウェゲナー肉芽腫症/非腫瘤型T細胞リンパ腫)】

 進行性鼻壊疽は、鼻づまり(鼻閉(びへい))、顔面の腫(は)れ、膿(うみ)や血を含んだ鼻汁(びじゅう)(鼻水)などの鼻の症状で始まることが圧倒的に多く、発熱があって、急性蓄膿症(きゅうせいちくのうしょう)(急性副鼻腔炎(きゅうせいふくびくうえん))とまちがわれやすいものです。
 そのうちに、鼻腔(びくう)を左右に分けている板に孔(あな)が開いたり(鼻中隔穿孔(びちゅうかくせんこう))、鼻がつぶれたり(鞍鼻(あんび))、口の中に潰瘍(かいよう)ができ、穿孔をおこしたりします。
 治療せずに放置すると、病変が全身に波及し、生命にかかわります。
 進行性鼻壊疽は、現在、まったく異なる2つの病気に分類されています。
 1つはウェゲナー肉芽腫症(「ウェゲナー肉芽腫症」)で、もう1つは鼻にできる非腫瘤型T細胞(ひしゅりゅうがたティーさいぼう)リンパ腫(しゅ)という悪性リンパ腫です。
 この2つは、症状がほぼ同じですが、ウェゲナー肉芽腫症は免疫(めんえき)の病気、非腫瘤型T細胞リンパ腫は悪性腫瘍で、治療法がまったく異なります。
 そのため、治療を始める前にどちらの病気であるか鑑別することが重要です。
●検査と診断
 ウェゲナー肉芽腫症は、血清中(けっせいちゅう)に抗好中球細胞質抗体(こうこうちゅうきゅうさいぼうしつこうたい)という特殊な抗体が出現することがわかり、診断が容易になりました。
 非腫瘤型T細胞リンパ腫も、特殊染色(とくしゅせんしょく)による病理組織診断の進歩によって的確な診断が可能になりました。
●治療
 ウェゲナー肉芽腫症には、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬と免疫抑制薬(めんえきよくせいやく)による治療が、非腫瘤型T細胞リンパ腫には放射線治療と化学療法による治療が行なわれています。
 これらの治療によって、両方ともに以前より格段によく治るようになっています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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