農産物の生産において、食品の安全性を確保するため、農業生産の各工程ごとの実施状況と適正な管理手法を示す手引であり、この手引を実践する取組み、認証制度のこと。農業にHACCP(ハサップ)(危害分析重要管理点)の手法を取り入れて、農産物の安全、環境への配慮、生産者の安全と福祉などを、結果管理としてではなく、工程管理に基づく品質保証としてなされることを目ざす。英語表記のGood Agricultural Practice(直訳は「よい農業の実践」)を略してGAP(じーえーぴー/ギャップ)、また農業生産工程管理、農業生産活動規範などとも称する。農林水産省では「農業生産現場において、食品の安全確保などへ向けた適切な農業生産を実施するための管理のポイントを整理し、それを実践・記録する取組」としている。
安全な農産物を生産するための規範を必要とする動きは、食品の安全性への意識の高まりとともに広がった。海外では、ヨーロッパ連合(EU)において、小売業者が主導した適正農業規範EUREPGAP(ユーレップギャップ)(1997年開始)が普及、世界的な広がりをみせ、2007年にはGLOBALGAP(グローバルギャップ)と名称を変更した。2007年の時点で世界(日本を含む)で8万以上の生産者およびそのグループがGLOBALGAPの認証を取得しており、国際的基準となっている。アジアでも、農産物の輸出競争力を強化するタイや中国などでは、GLOBALGAPを取得しようとする戦略が国家的規模でとられようとしている。
日本では、大規模にHACCPの考え方を農産物に適用した最初の例として、2002年(平成14)から量販店のイオンがプライベート・ブランドに「A-Q」(AEON Produce Suppliers Quality Management Standardsの略で、イオン農産物取引先様品質管理基準の意)という独自の品質管理基準を適用したことがあげられる。2005年には、日本における適正農業規範を確立し広く普及・発展させることを目的に、生産者が中心となってNPO法人日本GAP協会(2006年にNPO法人の現名称となる)を設立、JGAP(ジェイギャップ)の構築・普及に取り組んできた。
一般に、生産者は複数の取引先から異なる品質管理基準を提示されることから、統一した品質管理基準の採用を希望する意向が強くなっている。GAP取得の経済的メリットとして、安全性の向上と環境への配慮による持続性(持続可能な農業生産)の確保、農場管理の標準化による効率性、取引先への信頼性、輸出市場における国際的品質基準による競争力の確保などがあげられる。しかし、店頭では、原則的にその農産物の付加価値を十分に伝える表示が難しく、消費者の購買行動にただちに結びつきにくいことから、取引先と連携したプライベート・ブランドとして販売することによってプレミアム(特別な価値・価格)を確保しようとしている。現時点では、日本ではまだGAPの取り扱い件数が少ないことなどから、認証コスト(認証を受けるまでの費用)が高くなりがちであり、コストに見合う十分なプレミアムを確保できなければ、認証費用を節約する努力が必要になる。認証審査は審査機関が行い、認証対象は個別と団体の2種類がある。団体の場合、認証費用節約の実現のためには、情報管理や調整作業などをこなすマネージャーの確保が重要である。
2007年には農林水産省が「基礎GAP」を公表。これは、米、麦、大豆などの品目について、食品安全のための基本的なチェック項目を整備したもので、各作目とも、生産者用と産地用(JAなどの生産者団体)の二つのチェックリストからなっている。わが国では、農産物の輸出を目ざす生産者が少ないことから、多くの生産者はHACCP手法に基づく安全性の向上を図ろうと、行政が推進する基礎GAPを取り入れようとしている。また、都道府県の段階でも独自のGAPを普及させようとする場合がある。ただし、これら行政指導のGAPは、できるだけ多くの生産者に広い範囲で普及させることを目標とするため、チェック項目も少なく、比較的認証を取りやすい内容になっているので、プレミアムに結びつきにくいという点がある。また、認証費用は生産者の負担となるため、将来は、「環境直接支払い(環境に配慮した農業者に支払われる助成金)」などの農業環境政策との連動が期待される。
2008年現在、日本国内でGLOBALGAPを取得する件数は少なく、農林水産省のガイドラインに基づく特別栽培や、生産履歴情報JAS等に取り組んできた生産者やそのグループが採用しているにすぎない。今後、GAPの統一化や取引先との連携によるメリットの確保が必要となり、生産者と主たる取引先となる量販店・生協が同じテーブルについて品質管理水準を統一化し、さらに仕様書の統一へと発展する可能性がある。
[斎藤 修]
(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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