日本大百科全書(ニッポニカ) 「遺伝的組換え」の意味・わかりやすい解説
遺伝的組換え
いでんてきくみかえ
両親に由来する染色体の間で交叉(こうさ)とつなぎ換えがおこり、両親いずれとも異なる新しい遺伝子組合せができること。単に組換えともいうが、遺伝学的事象であることを強調して遺伝的組換えということが多い。高等動植物など真核生物では、減数分裂のとき複製され対合した相同染色体間でおこる( )。菌類では体細胞分裂のときにもおこり、体細胞組換えとよばれる。細菌類など原核生物ではDNA(デオキシリボ核酸)分子の相同な部分の間で組換えがおこる。形質転換や形質導入の現象がおこる場合には、DNA分子の断片が染色体DNAに取り込まれるとき組換えがみられる。
組換えによってできた新しい遺伝子組合せをもつ細胞や生物は組換え型、または組換え体とよばれる。交雑により組換え体ができる頻度は組換え価で示す。同じ染色体上の二つの遺伝子座の間の組換え価は遺伝子間の距離と比例関係にあり、組換え価を線上に目盛ると、遺伝子が染色体上にどのように配列しているかを示す図ができる。この図は染色体地図、遺伝地図、あるいは連鎖地図とよばれる。同じ染色体上の遺伝子は1本の線上に目盛ることができ、一つの連鎖群を形成する。
組換え過程では、染色体をつくるDNA鎖が相同な部分で交叉し、交叉点においてDNA鎖が切断され、相同なほかの鎖へつなぎ換えられる。これらの過程では、DNA鎖の切断酵素、分解酵素、修復酵素、連結酵素などが働く。このように相同染色体間で交叉がおこり、対称的な切断と互い違いのつなぎ換えがおこるような組換え機構は乗換えとよばれている。主として微生物では組換え不能突然変異体が得られ、組換え機構の研究に用いられている。組換え不能突然変異体は普通、紫外線やX線などの突然変異誘発要因に対して感受性となり、組換えとDNA傷害の修復の間に共通な酵素反応があるものと考えられている。菌類などでは野生型と突然変異型の遺伝子は減数分裂の結果、2対2に分離せず、3対1または1対3の分離がみられることがある。この現象は減数分裂により4細胞(4分子)ができるとき、一方の遺伝子が他方の対立遺伝子に変化することによっておこると考えられ、遺伝子変換または非相互的組換えとよばれている。遺伝子変換は減数分裂のとき、一方のDNA鎖の1本が切断されて、対合したDNA鎖の1本と異常な塩基対を含む短い雑種DNA断片をつくり、これが分離するとき異常な分離比を生じることによっておこるとされている。最近、酵素などを用いて切断された遺伝子DNAと、細胞内で自己増殖可能なDNAを試験管内でつなぎ、人為的に組換え体をつくる遺伝子工学的技術が発展してきた。この方法でつくられる組換え体は組換えDNAとよばれる。
[石川辰夫]