(村上正二)
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東洋史学者。盛岡に生まれ、もと藤村姓。養父那珂通高に国学・漢学を学び、東京に出て慶応義塾を卒業した。長く東京高等師範学校教授として東京大学講師を兼ね、主として東洋史学を講じた。1890年(明治23)までに五冊を出版した『支那(しな)通史』は宋(そう)代で止まったが、名著として好評を博し、清(しん)国で翻刻された。教科書用に編した『那珂東洋小史』は東洋史学の成立に寄与するところ大であった。宋に次ぐ元代を研究するために「蒙古(もうこ)語」を学び、『蒙文元朝秘史』を訳出した『成吉思汗(じんぎすかん)実録』もまた後世を裨益(ひえき)した。比較的初期の述作で、日本上古史、とくに紀年の問題、外国関係などの研究は、死後に編集された『那珂通世遺書』に収められている。
[宮崎市定]
1851.1.6~1908.3.2
明治期の東洋史学者。陸奥国岩手郡生れ。旧姓藤村。幼名荘次郎。14歳で盛岡藩藩校教授江帾通高(えばたみちたか)の養子となり,のち養父の復姓のときに改名。慶応義塾卒。1878年(明治11)千葉師範学校校長兼千葉中学校総理,のち一高・東京高等師範教授などを歴任。日本における東洋史の創設者であり,漢文で書かれた「支那通史」は近代的な中国通史としては世界最初のものである。晩年は元史研究に専心し,蒙古文「元朝秘史」から翻訳した「成吉思汗実録」を1907年に刊行した。
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…《日本書紀》の紀年および《古事記》の天皇崩年干支にかんする議論。《日本書紀》の紀年についての疑問は江戸時代にも提出されていたが,学問的手続をもってこれを論じたのは明治期の那珂通世(なかみちよ)である。神功紀,応神紀の紀年は両紀に引用された百済史料《百済記》と同じ干支ながら,120年の差があることから,両紀の紀年が120年(干支2運)くりあげられていることを那珂は論証した(今日,この干支2運くりあげの紀年操作は神功皇后を卑弥呼に擬定するためと理解されている)。…
…一つ一つの事項には編者の説明はないが,各部の初めに総説,各編の初めには解題が,編者によって付けられている。1879年,文部大書記官西村茂樹の建議により,文部省内に国学者の小中村清矩,榊原芳野と漢学者の那珂通世3名からなる古事類苑編纂掛を置き編纂開始。次いで完成を急がせるため,編纂年限を計9年半と定め,小杉榲邨,佐藤誠実,松岡明義ら8名の国学者,漢学者を参加させ,小中村に協力させた。…
…こうした政治的背景のもとで朝鮮,中国,北アジアなどの歴史を近代歴史学として研究・叙述しようとする風潮が生まれ,また西洋史中心であった外国史のなかに東洋史を独立して設けようとする動きが高まった。《支那通史》(1880‐90)の著者として知られる那珂通世(みちよ)の提議により,1894年中等学校の外国史を西洋史と東洋史に分けて教授することとし,これに応じて桑原隲蔵(じつぞう)の《中等東洋史》などが刊行された(1898)。東京帝国大学では初め漢文学科に包摂されていた支那史学が独立し,一方西洋史中心の史学科に東洋史学講座が新設され,やがて両者が合体して東洋史学科となった(1918)。…
…以後,教科書改訂のたびに皇国史観の色彩が強められ,日本は神国であるとの記述が増え,たとえば元寇のさいに吹いた大風は34年改訂以降,〈神風〉と記されるようになった。 一方,中等学校では日本史のほか,外国史も教授されたが,これについて1894年,那珂通世が東洋史と西洋史に二分することを提案,99年の中学校令にもとづく1902年制定の中学校教授要目により,第3学年で東洋史,第4,5学年で西洋史を扱うこととされ,とくに日本と関係する事項に留意して教授するよう指示された。ついで小学校教科書で南北朝問題の起こった11年に出された文部省訓令で,日本の国体や大義名分を明らかにすることを主とすべしとされ,〈我国体ト背馳スルガ如キ事歴ニ就キテハ彼我国情ノ異ナル所以ヲ明ニシ生徒ヲシテ誤解セザラシメンコトヲ期スベシ〉とされた。…
※「那珂通世」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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