改訂新版 世界大百科事典 「釈迦金棺出現図」の意味・わかりやすい解説
釈迦金棺出現図 (しゃかきんかんしゅつげんず)
涅槃(ねはん)に入った釈迦が,忉利(とうり)天より下ってきた生母摩耶夫人のために,棺から再び金色身をあらわして仏滅の真理を説いたという《摩訶摩耶経》の所説を描いたもの。京都国立博物館所蔵のこの図(国宝)は,高野山の《仏涅槃図》《阿弥陀聖衆来迎図》と並ぶ平安時代三大仏画の一つ。釈迦入涅槃の悲愁をあらわす涅槃図に対し,再生説法の奇跡を表現した本図は他に類例が少なく,敦煌壁画の仏伝図や鎌倉時代の八相涅槃図の中にいくつかの遺例があるものの,この場面を単独で大画面に構成した唯一の遺例である。その制作背景には涅槃図と同じく,平安後期の釈迦信仰が考えられる。本図は,高野山《仏涅槃図》に次ぐ11世紀末の制作と考えられるが,その線描の特色などには宋画の影響もすでにうかがうことができる。
執筆者:須藤 弘敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報