金不胎化政策(読み)きんふたいかせいさく(その他表記)gold sterilization policy

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金不胎化政策」の意味・わかりやすい解説

金不胎化政策
きんふたいかせいさく
gold sterilization policy

金が大量に外国から流入した場合、それが国内の通貨発行量を増大させ、インフレーションを巻き起こすのを阻止するためにとられる政策をいう。金本位制のもとでは、このような場合、通貨増発によるインフレーション効果を通じて、貿易商品の価格競争力が変化し、国際収支黒字が減少し、均衡に向かうという過程を促進させることが、通貨当局の守るべき「ゲームのルール」とされていた。このルールを意図的に守らず、流入した金の全部または一部と通貨発行量との従来の関係を遮断してしまうのが金の不胎化である。

 その顕著な例は両大戦間のアメリカにみられる。まず、1920年代前半にアメリカに巨額の金が流入した際には、当局は金証券を発行したり、政府証券の売りオペレーションなどにより、通貨の増発を抑制した。その後1930年代後半にも、ホット・マネーといわれる短期資金がアメリカに流入したが、当局は商業銀行の支払準備率の引上げを行い、また流入金の一部を「不活動資金」inactive accountという財務省特別勘定に保留して不胎化することにより通貨の増発を避けようとした。その目的は、信用インフレーション拡大を防ぐこと、およびいったん流入した資金が将来また流出するときの急激なデフレーション効果を避けようとしたものであった。

 しかし、このような金不胎化は、国際収支の不均衡の調整を妨げ、赤字国に対しその金準備を消尽させ、厳しいデフレーション政策や平価切下げ実行を迫ることになる。すなわち、国際収支調整の負担を赤字国側だけに押し付ける結果となるのである。

[原 信]

『R・ヌルクセ著、小島清・村野孝訳『国際通貨――20世紀の理論と現実』(1953・東洋経済新報社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「金不胎化政策」の意味・わかりやすい解説

金不胎化政策 (きんふたいかせいさく)
gold sterilization policy

金の流入と通貨供給との結びつきを遮断するための経済政策。第1次,第2次両大戦間にアメリカにおいてとられた政策として有名である。第1次大戦後に大量の金がアメリカへ流入したが,これはそのままにしておくと国内通貨の大量の増加をもたらし,通貨の大量増加はインフレーションをひきおこしてしまう。そこで,政府証券を発行(1936)して民間から通貨を吸いあげ,その資金をもって民間がうけとった金を買いあげ,それを不活動勘定inactive accountに入れた。そのため金の流入があっても民間における通貨の増加は生じないことになる。日本でも第1次大戦後,この政策が採られたことがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「金不胎化政策」の意味・わかりやすい解説

金不胎化政策
きんふたいかせいさく
gold sterilization policy

一国に金が多量に流入したとき,これが通貨,信用の膨張に結びつかないように経済へのインフレーション的影響を防止する政策。第1次世界大戦後,アメリカはしばしば大量の金流入に悩まされ,これが通貨の膨張に結びつく危険にさらされた。このため 1920年代からアメリカは連邦準備銀行の発券金準備を 100%にするなど,いくつかの不胎化政策を行なってきたが,1936年 12月,財務省は短期証券を売却して金を買入れ,これを同省内の不活動勘定として留保する政策を採用するにいたった。このような政策は 38年4月まで続けられ,一般に金不胎化政策とはこの措置をさす。

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百科事典マイペディア 「金不胎化政策」の意味・わかりやすい解説

金不胎化政策【きんふたいかせいさく】

一国に金が多量に流入すると,通貨増発をもたらし,経済にインフレ的影響を与える。この影響を防止するための政策をいう。たとえば1936年末,米国は流入する金を不活動資金として凍結し,金購入の代金として通貨の代りに財務省証券を交付した。日本も第1次大戦後に採用。

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世界大百科事典(旧版)内の金不胎化政策の言及

【ドル】より

…19年には第1次大戦間に過去の対外債務を返済したばかりでなく,逆にヨーロッパ諸国へ融資していたため,金解禁(金本位制への復帰)とともに大量の金がヨーロッパ諸国から流入した。金の流入は国内通貨を膨張させ,インフレを悪化させるので,いわゆる金不胎化政策をとった。すなわち財務省と連邦準備制度は金を民間から買い入れる際,通貨の代りに金証券を発行し,金の流入による連邦準備銀行券の増発を防いだ。…

※「金不胎化政策」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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