金枝篇
きんしへん
The Golden Bough
イギリスの人類学者・古典学者であるJ・フレーザーの代表的著作。1890年に初版が、1911年から36年にかけて決定版である第3版全13巻が刊行された。フレーザーの意図は、イタリアのネミ湖畔に伝わる聖なる森の祭司職継承の伝説――森の中に1本の樹(き)があり、祭司になろうとする者はその樹の枝を折り、前任の祭司を殺さねばならないという伝説――を説明することにあるが、世界中から集められた神話、習慣、呪術(じゅじゅつ)的活動などの豊富な資料を駆使するなかで、彼は、人類の知的発展が呪術から宗教へ、宗教から科学へという進化的過程を経ることを主張した。自らの調査に基づかない資料をその社会的、歴史的状況を考慮せずに呈示する方法は、現地調査を基本とする現代の人類学者によって批判され、記述の不正確さが指摘されるとともに、その進化主義的学説は現在では否定されるに至っている。しかし、類感呪術と感染呪術の区別、呪術と宗教の関係、神聖王権、王殺しの問題など、後世の人類学における主要な関心事についての先駆的な業績である『金枝篇』は、文化人類学の古典とされている。
[上田紀行]
『永橋卓介訳『金枝篇』全5冊(岩波文庫)』
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金枝篇【きんしへん】
フレーザーの人類学的著作。原題は《The Golden Bough》。1890年初版2巻,1911年―1915年決定版12巻を刊行(1936年補遺1巻を加える)。1922年刊の簡約1巻本は各国語に翻訳。イタリア,ネミ湖畔の金の枝をもつ聖樹が題名の由来で,この樹を守る祭司王の役割を流麗な筆で究明。宗教に先行する呪術(じゅじゅつ)の原理を分析,農耕に結合した神話や行事の意義を解明した。
→関連項目王権
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デジタル大辞泉
「金枝篇」の意味・読み・例文・類語
きんしへん【金枝篇】
《原題The Golden Bough》英国の文化人類学者J=G=フレーザーの著書。1890年初版刊、1936年、決定版全13巻刊。呪術や宗教を比較研究した。
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きんしへん【金枝篇 The Golden Bough】
イギリスの社会人類学者J.G.フレーザーの主著。1890年の初版の好評により次々と続巻が著されて拡大し,1911年に11巻本としてひとまず完成,その後さらに2巻が加えられた。22年には著者自ら簡約1巻本を編み,これは邦訳されて現在も刊行されている。この書は未開的・古代的宗教信仰の総合・集成的研究であり,呪術,タブー,犠牲,穀霊と植物神,神聖王と王殺し,スケープゴート等々のテーマが,世界全域の無数の事例により論じられている。
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世界大百科事典内の金枝篇の言及
【王】より
…死をかけたトーナメントであって,残酷なやり方だが,ここには,祖先の栄光ある力に最も近似した力をもつ者こそ,この祖先の力を実現できる者,という考え方が秘められている。 またフレーザーの《金枝篇》でひじょうに有名になった〈王殺し〉慣習もある。これは,王が自然死を待つことなく,人為的に死を迎えなければならぬという慣習で,未開社会に数多く見られる。…
【神話学】より
…この説も今日では,現地調査に基づく人類学の進歩によって,根本的に誤りだったことが明らかにされ,ようやく衰退した。しかしその立場から著された《金枝篇》に代表されるイギリスの古典学者・人類学者J.G.フレーザーの膨大な著作は,神話研究にとってきわめて貴重な資料の集成として,高い価値を現在でも失っていない。 現在の神話学を代表する権威の双璧は,フランスの比較神話学者デュメジルと,人類学者レビ・ストロースである。…
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