鉢物栽培(読み)はちものさいばい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉢物栽培」の意味・わかりやすい解説

鉢物栽培
はちものさいばい

植物を鉢に植えて栽培することをいい、主として観賞を目的とする。鉢植えでも、その利用目的によっては、育苗、移植、移動など異なる栽培法を行う場合もある。

[堀 保男]

沿革

鉢を用いる栽培の歴史は古く、中国では後漢(ごかん)時代の紀元200年前後ころの墳墓(河北省望都)から鉢植えの壁画が発見されている。日本では『続日本後紀(しょくにほんこうき)』(869)のなかに、高さ二寸余の花の発(さ)く橘樹(きつじゅ)、土器に植えて、という意味の記述がみられる。しかし一般に鉢栽培を楽しむようになったのは江戸時代中期以降で、盆栽をはじめオモトなど古典植物の栽培の流行による。とくに現在のように草花や観葉植物の鉢物生産が増加するのは1953年(昭和28)以降であり、これらは住宅環境や生活様式の変化、装飾的利用のくふう、贈り物などに用いやすくなったためと、手軽に維持管理できることに起因している。

[堀 保男]

対象と分類

観賞を目的とした鉢栽培の対象植物は、一、二年草、宿根草球根類花木(かぼく)類、観葉植物、ラン類、多肉植物など多くの種類があるが、一般には鉢とのつり合いのとりやすい、比較的背丈の低いものが用いられる。

 鉢物栽培は大きく分けて、露地で栽培するもの、温室やフレームなどの施設を用いて栽培するものとに区別できる。前者は暑さ寒さに強い球根類、花木類、宿根草類が多く、後者は低温乾燥に弱い熱帯性の草花類、観葉植物が主となる。とくに近年生産の多いラン類、シクラメンポインセチアなどの鉢物は、施設園芸の普及によるところが大きい。

[堀 保男]

栽培上の留意点

鉢物栽培は限られた鉢土の中で植物を育てるので、植物の種類と性質を知り、その生育に適した土壌条件、水分関係、環境を与えてやる必要がある。植え替えせずに数年間放置しておくと根詰まりになったり、古葉が落ちたりする。また、屋外で管理していたものを急に暗い部屋に入れると、生育が阻害される。

[堀 保男]

露地栽培では素焼鉢が生育に適するが、装飾として用いる場合は外観の美しい塗り鉢かプラスチック鉢がよい。また植物の背丈にあわせて深鉢、浅鉢を適宜用いる。

[堀 保男]

培養土

一般には肥沃(ひよく)な用土がよいが、樹勢が弱いものには肥料分を含まない土がよく、活着後に施肥する。理想的培養土は水はけがよく、しかも保水力のあるやや粘土質のものである。植物の種類によっては腐植質有機物(腐葉土、完熟牛糞(ぎゅうふん)、完熟鶏糞、ピートモスなど)が混入していたほうが生育良好の場合が多い。また地生ランのような場合は、土よりも軽石のような排水・通気性のよいものを使用しないと根腐れをおこしやすい。

[堀 保男]

施肥

肥料としては、油かす、骨粉など有機質のものと、粉、粒、棒状、液体の化学肥料や徐々に成分が溶解する遅効性化学肥料などがあり、それぞれの特色をもつ。有機質肥料は発酵分解してから肥料分となるのに対し、化学肥料は一般に水にすぐ溶解するので濃度に注意する必要がある。化学肥料は1回に2~3グラムを目標にする(5号鉢)。室内での施肥は水溶性の薄い肥料を月2~3回灌水(かんすい)を兼ねて施す。

[堀 保男]

灌水

鉢物は、地面に植えた場合と異なり、限られた範囲しか根がなく、日照や通風などによって水分の蒸発も多くなる。水の必要量は種類によっても多少差があるが、一度鉢土を乾燥させて細根を枯死させると回復が遅くなるので、湿害とあわせて注意する必要がある。寒さに弱い植物では温水(15℃)を午前中に灌水するように心がける。

[堀 保男]

植え替え

鉢の中に古根が多くなると生育も悪く、根の吸肥力も衰え、植物によっては忌地(いやち)現象をおこす。新しい培養土に植え替えて新根を再生させることがたいせつである。

[堀 保男]

整姿剪定

花木や植木類の鉢物栽培は、樹形の保持とともに花や葉を美しく仕立てることがだいじである。細枝や徒長枝はおりをみて剪定し、つねに姿を整えておく。また背丈の伸びたインドゴムなどの観葉植物は、下方から芽を吹かせて大きくしない整姿法もある。

[堀 保男]

環境条件

日照や通風の悪い場所で鉢物を栽培すると、徒長したり、花付きが悪くなったり、花蕾(からい)が落下することがある。日照を好むもの、半日陰を好むものなど原産地の条件を知り、あわせて温湿度管理をする。通風の悪い場所では病害虫も発生しやすい。

[堀 保男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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