改訂新版 世界大百科事典 「オモト」の意味・わかりやすい解説
オモト (万年青)
Japanese Rohdea
Rohdea japonica Roth et Kunth
ユリ科の常緑多年草。日本独特の観葉植物として愛培され,多数の園芸品種が育成されている。根茎は太く,節間が詰まって短く横走あるいは斜上し,先端部に近い節から葉を出して叢生(そうせい)する。葉は長さ15~50cm,幅3~7cmの披針形で厚く,濃緑色で光沢があり,先が鋭くとがって縁が少し波うつ。5~6月ころ,葉心から高さ10~20cmの太い花茎を伸ばし,その先の長さ3cmほどの長楕円形で肉質の穂状花序に,緑白色の花を多数密集させる。液果は秋に赤く熟し,直径8mm前後で,1個の種子がある。本州東北南部以南,四国,九州,沖縄,さらに中国大陸に分布し,暖温帯林の林床に散生する。根茎には血管収縮作用のある配糖体のロデインrhodein(アスピリン)を含み,漢方で強心剤,利尿薬とされる。
オモトの栽培史
オモトは室町時代の末期から,鉢に植えて観賞されるようになり,江戸時代の中ごろから葉変り品種が出現しだした。さらに江戸時代の末,文政・天保(1818-44)のころになって,多数の品種が育成され,一般庶民の間に普及し,それ以来今日まで,周期的な大流行を繰り返している。現在,日本全国で数十万人の愛好家によって,数百の品種が栽培されているが,多くの愛好会の中心的存在の日本万年青連合会が発行するオモト銘鑑には,葉長30cm以上の大型種で雄大な感じの薩摩オモトを中心とする約100品種と,葉長15cm以下の小葉オモトや葉長15~25cm内外の中葉オモト約300品種が紹介されている。
オモトの変異--葉の芸
オモトでは葉の変化を芸と呼び,個々の葉の変化だけでなく,株全体としての芸の調和がおりなす気品ある容姿を観賞する。その点からオモトはきわめて日本的な観葉植物と言えよう。
葉の芸には容姿,葉形(はがた),斑(ふ)模様,地合いの四つが考えられる。容姿には大葉(おおば),中葉(ちゆうば),小葉(こば)のほかに厚葉(あつば)(羅紗(らしや)系統)と薄葉(うすば)とがある。葉形には細葉(ほそば),広葉(ひろば),剣葉(けんば),鎌葉(かまば),竜葉(りゆうば),しかみ,受葉,樋葉(といば),群雀(むれすずめ),熨斗(のし),波葉,裏竜(うらりゆう),筒葉,獅子葉の別がある。斑には白斑,根岸斑,胡麻(ごま)斑,覆輪(ふくりん),砂子,虎斑,図(ず),矢筈(やはず),縞がある。さらに地合いにはユズに似た柚肌(ゆずはだ)と,粉をふったような浮地(うきじ)と,光沢があって堅い感じの板地とがある。これらの変異が複雑に組み合わさって,全体として雅趣に富むオモトの気品と風格がにじみでてくるのである。
栽培
4月ころ,腰高の楽焼鉢に,朝明砂(花コウ岩の砕けた砂で,指頭大~ゴマ粒大に4~5とおりに選別したもの)を主体に,鹿沼土,桑炭,ミズゴケ,軽石,焼土等を適宜に混合し,鉢底から上に順次に粒が小さくなるように,土をととのえて植える。
夏の強光を日除けして弱め,適宜に灌水し,薄めの油粕腐汁と灰汁を5,6, 10月を中心に与えて肥培し,子株が大きくなったら,4月あるいは10月に株分けで繁殖する。また,植替えと同じころ,芽のある根茎を切断して培養し発芽・発根させ(芋吹き)増殖することができる。冬は2℃以上に保ち,よく日に当て,寒風に当てないように注意する。
執筆者:植村 猶行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報