改訂新版 世界大百科事典 「鉱化流体」の意味・わかりやすい解説
鉱化流体 (こうかりゅうたい)
ore-forming fluid
岩石やマグマから鉱床を構成する物質を溶出(濃集)し,それを運搬・沈殿することによって鉱床を生成する流体。従来は固結するマグマから放出される水を主とする流体がこの働きをすると考えられてきたが,近年は酸素や水素の同位体の研究から,地下浅所を移動する地表水や,堆積岩の固化に伴って放出される水,変成作用の際に鉱物間の脱水反応によって放出される水など,さまざまな起源の水やその混合物が鉱化流体となることが分かってきた。鉱化流体の組成は,鉱床を構成している鉱物中の流体包有物の研究や,現在海嶺付近で多量の金属硫化物を沈殿している熱水活動からの情報などの直接的手段,それに現在の地熱水,温泉水などからの類推,また鉱物の溶解度の研究などの間接的手段により求められている。二酸化炭素やハロゲンガスに富む特殊な場合を除くと,鉱化流体は水を主とし,ナトリウム,カリウム,カルシウムなどの陽イオン,塩素,炭酸,硫酸などの陰イオンを含んでいる。これらのイオンの濃度は薄いものからかなり濃厚なものまである。このような水溶液中で重金属元素の多くは,種々の基と錯塩をつくって溶解していると考えられる。鉱化流体が異なる地質環境へと流動すると,温度降下などの物理的・化学的条件の変化が起こり,錯塩は壊れて重金属の大部分は硫化物などの鉱物として沈殿し鉱床を形成する。
熱水鉱床を生成したり熱水変質作用をもたらしたりする〈熱水〉は,鉱化流体の代表ともいえ,従来ほぼ鉱化流体の同義語として用いられてきた。しかし堆積作用に関連して有用な鉱物が濃集する鉱床(例えばコッパー・ベルト型銅鉱床やミシシッピ・バレー型鉛・亜鉛鉱床)などでは必ずしも流体の温度は高くなく(常温からせいぜい200℃くらいまで)熱水とはいえない。このため近年では鉱床を生成する流体を一般に鉱化流体とよぶようになった。古くは,純水の臨界温度(約374℃)より高温の熱水は,その物理的性質がガスに近い状態であると考えられ,そのような流体から生成したと思われる鉱床を気成鉱床pneumatolytic depositとよんで熱水鉱床から区別していた。しかし通常の鉱化流体はかなりの塩類を溶解しており,その臨界温度は純水の場合よりかなり高い。また普通の地質環境では,かなりの圧力がかかっているために,流体が気相(ガス)と液相とに分離(沸騰)することはほとんどないと考えてよい。このため374℃の上下で鉱化流体をガス状と液状に区別することはまったく根拠がなく,気成鉱床という分類もほとんど行われなくなった。鉱化流体の比重は,温度,圧力,溶存物質の種類と量によりおよそ推定できる。一般に熱水とよばれる温度範囲(200~600℃)では,流体の比重は0.5~1.0くらいであると考えられ,ガス状といえるほど希薄なものではない。
→熱水鉱床
執筆者:島崎 英彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報