鉱物学的相律 (こうぶつがくてきそうりつ)
mineralogical phase rule
火成岩や変成岩中に平衡に共存することのできる相(鉱物)の最大の数は,ある決まった温度・圧力の条件下では独立成分数に等しい,という法則。〈ゴルトシュミットの鉱物学的相律〉ともいう。その基本となるのは熱力学におけるギブズの相律である。すなわちc個の独立成分からなる系では平衡に共存する相の数pと系の自由度Fの間にはF=c-p+2という関係がなりたつ。これを岩石に応用したものが鉱物学的相律である。ある火成岩や変成岩を考える場合,閉鎖系として扱えば温度と圧力はその岩石のおかれた外部条件により規定されるので,自由度は二つ減り,F-2=c-pとなる。つまり,自由に変化させうる変数の数はc-p個となる。平衡であるためにはc-p≧0でなくてはならないので,ある温度・圧力の条件下では平衡に共存することのできる鉱物相の数pはc≧p,すなわちその系の成分数cと等しいかそれより少ないということになる。
岩石を開放系として扱うことはコルジンスキーD.S.Korzhinskiiによって理論化された。成分を固定成分ciと完全移動性成分cmに分けて考え,完全移動性成分の化学ポテンシャルは周囲の条件により決定されると考えると,ある温度・圧力条件下ではci≧p,すなわち平衡に共存しうる相の数は固定成分の数をこえないということになる。この法則を用い変成岩の形成された温度や圧力を求める変成相解析の試みが,近年数多くなされている。
執筆者:永原 裕子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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鉱物学的相律
コウブツガクテキソウリツ
mineralogical phase rule
不均一系平衡に関するもっとも一般的な法則は相律である.相律では
P + F = C + 2
が成り立つ.ここで,Pは相の数,Fは自由度,Cは成分の数である.相律は地球化学的考察によって次のように拡張される.ある系ではPが最大になるためにはFは最小でなければならない.この状態は温度と圧力が固定したときに実現するが,マグマの晶出作用の過程を通じては保たれない.温度と圧力は広い範囲で変化するからであり,この場合,そのことからF = 2となる.この状態のもとでは相律の式はP = Cとなる.これがV.M. Goldschmidt(ゴルトシュミット)の鉱物学的相律といわれ,次のことを意味する.「任意の温度,圧力のn成分系では,n個以上の相は安定に共存しえない」.火成岩で化学組成は広く変化するが,鉱物組成は比較的単純であるのはこれに由来する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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岩石学辞典
「鉱物学的相律」の解説
鉱物学的相律
変成岩の中に共存する鉱物の種数をギブス(Willard Gibbs)の相律に基づいて規定する法則で,ゴールドシュミットが使用し[Goldschmidt : 1911],その後コルジンスキーにより拡張された.(1) ゴールドシュミットの鉱物学的相律[Goldschmidt : 1911] ; 地殻内の温度や圧力は外的条件によって決まり,地殻内の部分によって異なる.そこで,広範囲に普通に出現する鉱物の組合せは,閉じた系の化学平衡状態で生成されると見なす場合には,自由度が2またはそれ以上にならなければならない.したがって,共存する鉱物種の最大の数は,その系の独立成分の数に等しい.この法則はp=c+2-fと表され,pは共存する相の数,cは成分の数,fは自由度である.(2) コルジンスキーの鉱物学的相律[Korzhinskii : 1936, 1959] ; 変成岩が開いた系である場合には,温度と圧力だけでなく移動性成分の化学ポテンシャルも地殻内の部分によって異なる.したがって,平衡に共存する鉱物の最大の数は,その系の独立成分の数から移動性成分の数を引いた値,すなわち固定性成分の数に等しい.
出典 朝倉書店岩石学辞典について 情報
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法則の辞典
「鉱物学的相律」の解説
鉱物学的相律【mineralogical phase rule】
平衡状態で生成した一つの岩石を構成する鉱物の種類の数(相の数)は,最も多数の場合でも成分の数に等しい.実験室内と異なり,地殻中で岩石が生成する場合には,生成時の温度と圧力は任意の値の組合せを取りえないのが普通のため,上のようになる.「平衡律」と記してある成書も多いのは,地質・鉱物学では「相」はphaseよりもfaciesの意味で用いることが普通だからである.
出典 朝倉書店法則の辞典について 情報
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