ガスマスク,防護マスク,防毒面ともいう。有害なガス,蒸気およびこれらと混在する微粒子状物質を含有する空気を浄化して吸入するための呼吸保護具。19世紀の中ごろすでに有害ガスを防ぐ目的で木炭呼吸器が考案されていたが,第1次世界大戦中にドイツ軍がイープル付近の戦闘(1915年4月22日)において毒ガス(窒息性の塩素ガス)を使用したため,連合軍がその防護対策として,数枚の布を重ねたものに苛性ソーダを加えたチオ硫酸塩溶液を浸した呼吸保護具を用いたのが軍用防毒マスクの始まりである。毒ガスの戦場における使用は連合軍側を刺激し,以後ホスゲン,青酸をはじめとする多種大量の毒ガスの使用へと発展し,これに伴い防毒マスクは逐次改良された。また1917年7月,ドイツ軍の使用したびらん性のイペリットは眼と内臓器官を傷害するのにとどまらず,皮膚に付着して,これを腐食するため全身を防護する必要性が生じた。このためガス,液状または霧滴状の毒物が衣服を浸透しないように布やゴム引き布に耐薬剤性塗料を塗った防毒衣が開発され,個人防護用として防毒マスク,防毒衣,防毒手袋,防毒長靴が装備されるにいたった。
現在では,民間においても鉱山や有害ガスなどを発生する工場やその他の事業場では,労働者の安全確保の立場から防毒マスクの使用を法律で義務づけている国が多く,日本では労働安全衛生法で規定されている。
一般に,防毒マスクは眼や顔面をおおう目ガラスのついたゴム製の面体に,汚染された空気を浄化する吸収缶が連結されている。吸収缶は,微粒子状物質を除去するろ過材とガスを吸着,中和または触媒作用によって無毒化する吸収剤とから成るものと,吸収剤のみから成るものとがある。ろ過材はろ紙,羊毛フェルト,不織布に特殊な樹脂加工をしたものやガラス繊維,合成繊維をち密に抄紙したものが使用されている。吸収剤は産業用では特定の有害ガスに対処するので,それぞれのガス専用の吸収剤を用い,軍用では不特定の毒ガスに対処できるように特殊に処理された活性炭を用いる。
火災現場など酸素の欠乏(酸素濃度が18%以下)するところやガス濃度の濃いところでは,空気マスク,酸素マスクを使用する。また,有害ガスなどと混在していない微粒子状物質の浮遊する環境下では,面体とろ過材とからなる防じんマスクが使用される。
執筆者:鈴木 康夫
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