村落と都市の居住様式を研究する地理学の分科。地理学研究の中核に位置し,集落を地表上に展開する多彩な文化景観の主要な構成要素として,その立地,形態,規模,機能,および歴史的発展を研究する。村落の場合,住居とともに農地が取り上げられ,形態と機能上での両者の結びつきが注目をひく。住居形態としては散村,小村,集村があり,柵や広場の有無,その形態などによって再分類される。農地形態としてはブロック農地,紐状農地,広幅紐状農地などがある。また都市の場合,街路網,広場,城壁などの分布と形態,および都心,商業地区,工業地区,住宅地区などの機能分化,さらに中心機能とその到達範囲が問題となる。いずれのパターンについても,規則性と不規則性が区別され,最近ではそれらの計量分析も進んできた。
すでに20世紀初頭,リヒトホーフェンは《一般集落交通地理学》(1908)において,居住様式を〈定着的〉と〈移動的〉に区別し,集落の自然への依存性を強調した。その後O.シュリューターの北東チューリンゲンの研究(1903)やブランシャールのグルノーブルの都市研究(1911)などによって,大縮尺の地形図,古地籍図,文献などを利用した現地調査に基づく実証研究の基礎が固められた。前者の方法論に具体的な示唆を与えたのが,農業史家マイツェンA.Meitzenのヨーロッパ全土にわたる集落形態の分析(1895)である。またグラートマンR.Gradmannは20世紀初頭から南ドイツをフィールドとして植物群落と居住との諸関係について歴史地理学的考察を進め,1910年代以降の集落研究に大きい影響を与えた。日本でもこの時期に小川琢治や小田内通敏などによって集落研究が本格化し,30年代には米倉二郎によってマイツェンの方法論が古代条里村落の復原に導入された。しかし20世紀後半には研究の重心が従来の形態学的・発生学的分析から,機能とその社会経済的要因分析に移った。その機縁は,都市・村落の一体化や,社会・経済・人口の激動にともなうW.クリスタラーの中心集落論(1933)の批判的摂取とその後の社会地理学social geographyの盛行にある。都市とその勢力圏,および集落単元ごとの社会経済的類型化の研究は,今日では都市・地方計画にも大きい役割を占めるにいたった。社会地理学が居住に関する学際領域に深く関与するにつれて,一部では集落地理学の解体がうんぬんされる。しかし景観の重要な構成要素としての集落の研究課題の中には,地表への視点を欠く当面の社会地理学には完全には包摂しがたい分野がある。それは,グラートマンの方法論を踏まえて,のちにL.ワイベル,F.フッテンロッヒャー,J.シュミットヒューゼンなどによって確立された集落生態学の課題である。地形図や地籍図以外に空中写真などを活用して,無機的自然と植生,集落の有機的関連とその変化を微細に究明するこの部門は,集落の歴史地理学的研究とあいまって,集落の地理学研究の重要な一翼をになうべきものである。
執筆者:水津 一朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人文地理学の一部門。人類の居住とそれに付随する生活、生産の地域について研究する分野をいう。分布、形態、立地、発達過程、機能、集落間の関係・結合について研究し、それらの地域的性格を究明することが集落地理学の本質的課題である。したがって関連分野が広く、とくに人口、歴史、民族の諸学との結び付きが深い。その研究成果としては、第二次世界大戦前からは形態(平面と立体)と立地の両分野が主で、戦後はそれらに加えて機能、発達、変容の諸分野に著しい業績がみられている。
形態については、日本については古地図、とくに地籍図の利用が注目される。立地については自然地理的条件の影響を受けることが大きい。第一次産業を主とする村落では、まず日常生活に必要不可欠な飲料水の取得に恵まれ、耕地、林野、漁場などの生産手段への近接状況と交通の便・不便が第一要件をなす。また日照に恵まれ(山地丘陵では日向(ひなた)斜面)、自然災害を避けやすい地区(風水害が少ない)が選ばれる。人口が増え集落が拡張されると人工的に災害防除施設(防水・排水の施設)を設けて安全を期する。都市立地は地域の中心地たりうることが重要条件で、水陸ともに交通の便に恵まれ、重量物資の集散に好都合で、第二次・第三次両産業地としての適否が選定の要件をなす。都市立地のための自然的条件の不備については人工工事によってそれを補ってきている。都市はまた人口の集中が多く、飲料水、産業用水の補給をはじめ、市民の保健衛生にも村落以上に留意する必要がある。ヨーロッパ都市の先駆とされるローマは、大規模道路を整備して政治都市としての国家中心性を強化し、テベレ川水運の産業的利用を図ったのをはじめ、大型水道を築設して給水問題に対処し、低湿な中心市街地に対しては排水溝と下水道を設けた。こうしてローマはヨーロッパにおける大都市造成法のモデルとされてきたのであり、現在も欧米の都市建設に引き継がれている。これが日本の都市建設手法と大きく趣(おもむき)を異にするところである。
村落はその長い歴史の経過のうちには、純粋に第一次産業依存に推移しているのは例外で、程度の差はあれ、第一次産業の商品生産化、また第二次・第三次産業の導入傾向は否めないところである。日本近世も中後期になると村落居住者の職業変化はもとより、家族構成の分析によっても所得増による変容、村落の機能変化、そしてそれにも地域較差がみられる。したがって集落地理学の研究には歴史手法の導入がまた必要である。
[浅香幸雄]
『綿貫勇彦著『集落地理学』(1933・中興館)』▽『辻村太郎著『地理学序説』(1954・有斐閣)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本で最初に〈集落〉の語を用いたのは新渡戸稲造の《農業本論》(1898)で,農業経営の立場から農村の集落形として疎居・密居のあることを述べている。そして〈集落〉が現在のように都市・村落を含めた人類居住の意に用いられるのは,ヨーロッパの集落地理学が紹介されて以降,1921年前後からである。最近では農林業センサスでも〈農業集落〉の用語が用いられるようになった。…
※「集落地理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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