非交戦状態(読み)ひこうせんじょうたい(英語表記)non belligerency

改訂新版 世界大百科事典 「非交戦状態」の意味・わかりやすい解説

非交戦状態 (ひこうせんじょうたい)
non belligerency

第2次世界大戦勃発当初,敵対行為に参加せず,しかもすべての交戦国に対して平等な取扱いを行うわけではない国の態度を指すために用いられた言葉。このような態度をとる国は非交戦国と呼ばれた。これはまずイタリア,ついでアメリカによりとられた。とくにアメリカは1940年以降参戦するまで,連合国側とくにイギリスに対して,航空機その他の兵器輸送,航空兵のアメリカ領土内での訓練駆逐艦50隻の譲渡等を行った。非交戦国のとるこのような態度は,交戦国双方に対する公平の原則を中心要素とする中立法からみれば許されないことであったが,アメリカは侵略に対する民主主義防衛と称してこれを正当化した。事実,交戦国か中立国かの二者択一を迫る中立制度は国際連盟体制の下で戦争違法化が進むにつれ動揺を免れず,戦争に訴えることを非とした1928年の不戦条約に違反して戦争に訴えた国は第三国に対して中立義務履行を要求できず,また第三国は違約国に対する関係で中立法規にもとづく義務を負わないとさえ解釈された(1934年国際法協会International Law Associationブダペスト決議)。このような中立制度の動揺過程であらわれた非交戦状態は中立状態にかわるもので,非交戦国は中立国と交戦国との中間的地位を有するともいえる。これは,参戦しない国が中立宣言を行わなければ必ずしも中立法規の遵守を義務づけられないという,第2次世界大戦後一般化する中立の任意的選択を認める傾向端緒となった。
中立
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「非交戦状態」の意味・わかりやすい解説

非交戦状態
ひこうせんじょうたい
nonbelligerency

戦争に直接参加しない第三国と交戦国との関係で,しかも中立法規の適用を受けない状態。古典的な国際法によれば,非交戦国は交戦国に対して中立義務を負うので,非交戦状態は中立を意味した。しかし,第1次世界大戦後,国際連盟規約,不戦条約 (1928) によって戦争の違法化が実定化された結果,この関係および意味する状態は大きく変化した。たとえばアメリカは第2次世界大戦に,参戦する前の 1940年イギリスに駆逐艦を,41年には武器貸与法を制定して連合国側に国防資材を,またイギリスに種々の情報を提供した。古典的中立法規と矛盾するこの行為は,アメリカにより非交戦状態にあると称して説明された。その後,非交戦状態は直接に参戦はしないが,交戦国の一方に援助を与える地位を意味する語として用いられるようになった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「非交戦状態」の意味・わかりやすい解説

非交戦状態
ひこうせんじょうたい
non-belligerency

他国の間の戦争に際して直接にこれに加わらない国の地位ではあるが、非交戦状態という概念は、戦争が国際法上で違法化された段階で特殊に生まれたものである。古典的国際法の下では、他国の間の戦争に加わらない第三国はすべて中立国とされ、交戦国に対して公平と回避の義務を負うものとされた。しかし、戦争が違法化されるようになると、侵略国に対しては、第三国はかならずしも公平・回避の義務を負うことを要しないという観念が生じた。たとえば第二次世界大戦中、1940年にアメリカがイギリスに駆逐艦を譲渡したときにも、アメリカは中立国ではなくて「非交戦国」であり、「非交戦状態」にあると釈明された。

[石本泰雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の非交戦状態の言及

【戦争】より

…連盟体制の下で,連盟国の義務とされた,違約国に対する非軍事的措置は中立法規の枠内でとりがたいものであったが,連盟国が戦争に参加しない場合などにおいて,中立の地位は妥当しえた。ところが,第2次世界大戦において,アメリカは参戦前に連合国側へ援助を行い,この態度を中立関係にかわる〈非交戦状態〉と称した。国連体制は連盟以上に中立制度と両立しがたい。…

※「非交戦状態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android