駆逐艦(読み)くちくかん(英語表記)destroyer

精選版 日本国語大辞典 「駆逐艦」の意味・読み・例文・類語

くちく‐かん【駆逐艦】

〘名〙 海軍艦船の一つ魚雷を主要兵器として持ち、敵の主力艦潜水艦に対する魚雷攻撃、爆雷攻撃を本務とする。小型で、速力がはやく、また、軽快に動きまわることができる。本来、敵の水雷艇を駆逐、破壊するのが目的であったところからいう。〔海軍艦船条例(明治二九年)(1896)〕

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デジタル大辞泉 「駆逐艦」の意味・読み・例文・類語

くちく‐かん【駆逐艦】

海軍艦船の一。防空力・対潜能力・水上打撃力となるミサイルや魚雷・爆雷などを搭載する比較的小型の快速艦。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「駆逐艦」の意味・わかりやすい解説

駆逐艦
くちくかん
destroyer

元来は魚雷を主兵装とし、敵の大艦を襲撃することを任務とした高速水上艦艇(水上戦闘艦艇)。軍艦の一種。今日では、基準(または常備排水量3000~7000トン、30~37ノットで強力な艦隊防空力、対潜能力および水上打撃力を備え、航洋性の高い高速汎用(はんよう)水上艦艇をさす。魚雷を搭載した水雷艇の脅威に対抗するために建造されたもので、1893年イギリスで試作されたハボックHavock、デアリングDearing(240トン、27ノット)の2艦が最初。当初、水雷艇駆逐艦torpedo boat destroyerと称したが、のちに単に駆逐艦とよばれるようになった。この艦種はその後、自ら魚雷で敵艦を襲撃するようになり、水雷艇にとってかわった。1903年には、イギリスで世界最初の航洋駆逐艦リバー級River Class(約600トン、26ノット)が竣工(しゅんこう)、駆逐艦は艦隊に随伴し洋上作戦を遂行しうる能力を備えるに至った。第一次世界大戦時には、駆逐艦は潜水艦攻撃や船団護衛にも使用され対潜任務にも適していることを立証した。

 日本では、日露戦争までに300~400トン前後、29ノット、45センチ魚雷発射管2門装備の艦が多数建造され、戦時には敵主力艦攻撃、敵水雷艇・駆逐艦の撃退撃滅、哨戒(しょうかい)などに用いられた。1928年(昭和3)に竣工した特型駆逐艦(1680トン、37ノット)は、優れた航洋性と飛躍的に強化された砲雷兵装を有する駆逐艦で、各国の駆逐艦設計上、大きな影響を与えた。第二次世界大戦では、各国で駆逐艦の対空砲熕(ほうこう)兵装の強化が重視され、同時に対潜能力、雷撃能力の向上が図られた。1500~3000トン級の艦が多数建造され、雷撃・砲撃、艦隊・船団護衛、対潜、防空、哨戒、偵察、輸送、上陸戦支援、機雷敷設など広範囲な任務につき、万能艦的な存在となった。また防空駆逐艦、対空哨戒駆逐艦など特定任務に重点を置いた艦も登場、他方、比較的に小型・低速で量産に適し、対潜・対空能力を重視した護衛駆逐艦または簡易型駆逐艦が、イギリス、アメリカ、日本などで多数建造された。

 第二次世界大戦後は海戦の様相の変化から、その重要度はかつてほどのものではなくなった。しかし、1960年代初頭に登場した対空ミサイル(SAM)は、艦隊防空能力としての有用性をふたたび駆逐艦にもたらし、1970年代には対艦ミサイル(SSM)が装備されるに至り、強力な水上打撃力をも備えることになった。さらに、艦上へのヘリコプター搭載による能力向上も図られた。1970年代前期には大型全天候対潜航空機の搭載艦も出現し、さらにはその後、対潜・対艦ミサイル防御、対艦ミサイル攻撃目標の捜索、標定などを行う多目的機を搭載し、総合戦力を向上させる努力がはらわれている。以上の諸装備に加えて、電子、通信、戦闘情報処理などの装備の搭載により、駆逐艦は対空、対潜、対水上打撃力をバランスよく備えた汎用高速水上艦になった。1990年代からは広域防空多目標同時対処能力を有するイージス・システム、ステルス設計などの採用により、アメリカのイージス駆逐艦アーレイ・バーク級Arleigh Burke Classのように艦型が約7000トンの大型艦も出現している。雷撃を除き、現在では第二次世界大戦当時とほぼ同様の任務を遂行しているが、アメリカの駆逐艦は空母機動部隊の護衛を、ロシアの駆逐艦は水上戦闘を重視している点に特徴がある。今後は内陸を含めた沿岸への攻撃能力が必要とされ、アメリカが建造中の駆逐艦ズムウォルト級Zmwalt Classはこの能力を備え、満載排水量が1万4000トンを超す大型艦である。駆逐艦の機関は従来は蒸気タービンが使用されていたが、1960年代以降は、ガスタービン機関が単独あるいは他種機関と併用された形で採用され、現代駆逐艦の主流を占めるに至っている。海上自衛隊の護衛艦はこの艦種に相当する。なお、イギリスの最新駆逐艦デアリング級Dearing Class(6400トン、2009年完成)と前記ズムウォルト級は、機関に初めて統合電気推進方式(電気推進方式の一種で、推進器駆動の電動機用だけでなく、艦の所要電力のすべてを同一発電システムで得る)を採用しており、これが今後の大型水上戦闘艦艇に用いられる趨勢(すうせい)にある。

[阿部安雄]

『堀元美著『駆逐艦 その技術的回顧』(1969・原書房)』『堀元美著『現代の軍艦』(1970・原書房)』『堀元美・江畑謙介著『新・現代の軍艦』(1987・原書房)』『『世界の艦船第587号 特集 戦後の駆逐艦』(2001・海人社)』『『福井静夫著作集5 日本駆逐艦物語』(2009・光人社)』『Stephen SaundersJane's Fighting Ships 2010-2011(2010, Jane's Information Group)』


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百科事典マイペディア 「駆逐艦」の意味・わかりやすい解説

駆逐艦【くちくかん】

元来は魚雷を主兵装とし高速で敵艦隊を襲撃するのを主任務とした軍艦。起源は水雷艇で,水雷艇より大型化・高性能化されたこの駆逐艦は第2次大戦からは船団護衛,哨戒(しょうかい),対潜攻撃,対空防御など広範な任務をもつようになった。このためフリゲート,コルベット,あるいは任務に応じて対潜艦,護衛艦,哨戒艦などと呼ばれるようになり,駆逐艦の名は廃されつつある。排水量は大体2000〜8000トン,高速を特色とし,兵装は7.5〜12.7cm砲,対空ミサイル,前投兵器(小型の爆雷や魚雷をロケットなどで前方に射出するもの),対潜兵器など。海上自衛隊ではこの艦種を護衛艦と称し,2012年3月現在就役艦48隻,22万2000トンを保有。こんごう型は7250トン,30ノット,しらね型は5200トン,32ノット,はたかぜ型は4600トン,30ノット。
→関連項目艦艇警備艦掃海艇装甲ターターバルジ(船舶)補助艦艇

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「駆逐艦」の意味・わかりやすい解説

駆逐艦
くちくかん
destroyer

多様な作戦任務につく重装備,高速の海軍艦艇。巡洋艦よりも小型。排水量は初め 320t程度であったのが,今日では最大 8000tまで大型化している。通常は 1500~4000tで,全長 95~140m,140~350人ほどの将兵が乗組む。魚雷,中小口径砲,ミサイル,爆雷,ソーナーなどで武装し,30~40knで航行できる。防御用の装甲はない。最初の駆逐艦は 1893年に建造されたイギリスのもので,水雷艇駆逐艦 torpedo-boat destroyerと呼ばれ,水雷艇を駆逐するとともに,魚雷攻撃を行う任務を与えられていたが,のちに駆逐艦 destroyerと改められた。旧日本海軍が最初に保有した駆逐艦は『東雲』といい,当時はまだ水雷駆逐艇と呼称され,また 1000t以上を1等駆逐艦,以下を2等駆逐艦に分けた。第1次世界大戦後,各国海軍は,艦隊決戦において駆逐艦を,敵艦隊に対する魚雷攻撃,または回避運動を強要することによって敵艦の砲撃の精度を狂わせるために使うことに主力をおいた。また,駆逐艦は戦艦や航空母艦の周囲を警戒し,潜水艦の襲撃にそなえ,さらに防空にあたる任務を与えられた。第2次世界大戦では,船団を護衛するために従来の駆逐艦よりも小さな護衛駆逐艦 destroyer escort(DE)が登場した。 1939年9月にはイギリス 188隻,ドイツ 30隻,日本 138隻,アメリカは新型艦 97隻と前大戦型艦 153隻の駆逐艦を保有していた。大戦後は巡洋艦などの大型艦艇に代って駆逐艦が大型化する傾向にあり,アメリカのスプルーアンス級駆逐艦は排水量 8000t (満載) ,アーレイバーク級駆逐艦は 8315t (満載) ,旧ソ連のソブレメンヌイ級駆逐艦は 7300t (満載) である。海上自衛隊では駆逐艦を護衛艦と呼んでいるが,一般にはフリゲートを護衛艦と呼ぶ。

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世界大百科事典 第2版 「駆逐艦」の意味・わかりやすい解説

くちくかん【駆逐艦 destroyer】

第2次世界大戦以前は砲,機銃および魚雷を主兵装とし,敵の艦船を攻撃するための1400~2000トン程度の軍艦を呼んだが,現在では3000~8000トン程度の戦闘艦をさす。 駆逐艦の起源は水雷艇に端を発する。魚雷の開発(1866)に伴い,魚雷で敵を攻撃する専用の艦艇の開発が進められた。1870年代後半,イギリスは魚雷発射管を搭載した〈ライトニング〉(長さ25m,幅3.4m,排水量27トン,速力19ノット)を製造し,これを水雷艇と呼んだ。

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