合理主義に対立するさまざまの思想的立場をいう。しばしば、極端な合理主義的体系の反動として現れる。その思想形態は、それが敵対する合理的体系のあり方に応じていろいろ違った形をとる。たとえば、18世紀には、純粋な思惟(しい)しか信じないデカルト主義に反対して、感覚や感情の復権を目ざす立場が現れた。コンディヤックの感覚主義やルソーの感情主義などがそれである。
19世紀には、世界が理性によって支配されていると考えるヘーゲル主義に反対して、理性によってはとらえられないもの、非合理的なものこそ究極的なものとみなす、いろいろの立場が現れた。世界のもっとも内的な本質として「生への盲目的意志」を考えるショーペンハウアー、自然界に働いている根本の力を「力への意志」としてとらえるニーチェ、宇宙の全体を貫き不断に創造的進化を遂げていくところの実在をエラン・ビタール(生の活力)として把握するベルクソンらがそれである。人間の存在を、どこからきてどこへ行くのかも知らず、なんの理由もなしに、ただ、いまここに事実上存在するだけの、不条理な、偶然的な「実存」としてとらえる実存主義も、こうした非合理主義の系譜のなかに位置づけることができよう。しかし、それは近代合理主義への反動ということに尽きず、形式的合理性の追求によってつくりだされた近代社会の機械化と非人間化の過程に対する反抗として生まれたものであった。さらに遠くさかのぼれば、中世に登場した否定神学やドイツの神秘主義も非合理主義のうちに数えられようが、これらは、神の本性を自然理性によって概念的に規定しうると考える神学上の立場に対する反動として生まれたものであった。
このように、非合理主義はあくまで一定の合理的体系に対する反動としてのみ生み出されるものであって、敵対者としての合理主義を見失うならば、その存立の基盤もなくなってしまう。その意味では、東洋における本質的に非体系的な神秘思想に関しては、比喩(ひゆ)的な意味で非合理主義と称されることはあっても、厳密な意味においては、この名称は不適当というべきであろう。ヨーロッパにおける非合理主義は合理主義と厳しく対立し、反発しあっているようでも、その底には、両者に共通な基盤あるいは前提があるのである。
[伊藤勝彦]
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…マルクスの弁証法的唯物論による歴史の法則的把握も,サルトルのそれに対する実存主義的な補強も,その発展上に現れたものである。
[イメージの回復――合理主義と非合理主義の間]
上述の,合理主義の形式化と内容の回復という問題は,非合理主義irrationalismの問題ともかかわらせてもっと広くとらえなおすと,イメージ(イメージ的全体性)の追放と回復の問題になる。デカルトの合理論哲学は,明証性を真理の基準として,疑わしいものをすべて排除していった。…
※「非合理主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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