広い意味では思考の能力を意味し、感覚的な諸能力、すなわち一般的にいって感性と対立する意味で使われるが、とりわけカント以後定着した今日の用法においては、他方で、より高次の認識能力、あるいは能力一般としての理性(さらにヘーゲルの場合には、なんらかの意味で文化的、集団的なきずなの総体としての精神)に次ぐ位置を占めるものとみなされる。もともと中世哲学の思考において、さらに近世に入っても典型的にはスピノザの場合などには、理性ratioは間接的推論による認識を事とする能力として、低次の感性的直観の能力と高次の知的直観の能力たる知性intellectusの中間に位するものと考えられていた。ところが、とりわけ啓蒙(けいもう)時代以降における神学的形而上(けいじじょう)学の退潮ないし世俗化という時代の潮流に伴って、知的直観といったものを認めないカントを一つの転機とし、また典型ともして、元来は知性intellectusの訳語であったVerstand(ドイツ語)、understanding(英語)、entendement(フランス語)などの語と中世以来の「理性」との間に地位の逆転がおこり、以来「悟性」は、推理の能力としての理性の下位に位置する判断の能力という意味を獲得し、これに従ったヘーゲルの影響の大きさなどもあずかって、この用法が今日までほぼ標準的となったのである。とはいえ、カント以後においても、たとえばシェリングなどは、Verstandの用語を昔ながらの直観的知性の意味で使う場合がままあり、これに知性でなく悟性の訳があてられる場合には(この訳語自体、直覚的悟達の能力という意味がむしろ古来の用法のほうに元来対応するものであったのだが)、読解には細心の注意を必要とする。かつては『人間悟性論』と訳されたロックの著作が、今日では多く『人間知性論』と訳される傾向にあるのも、ロックの場合には中世形而上学への批判的傾向が強く出るとはいえ、なおカント的な理性―悟性の区別の出現以前の時代のものであることを考えると、当を得た処置と考えられよう。訳語の定着整理には、今日の状勢からみて、なおしばらくの年月と曲折を必要とすると思われるが、ことは、単に訳語の問題にとどまらず、近世西欧の思考での大きな転換が絡むものでもあるので、慎重な配慮と検討を必要としよう。いずれにせよ、今日では、古典的形式論理学がもはや歴史的なものと化した以上、カント的な理性―悟性の区別が生きたものとしてそのまま使われることはない。
[坂部 恵]
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… 近世においては,例えばデカルトは,想像力による数学的命題の証明を否認しながらも,それが純粋知性の洞察を形象的に直観化してくれるところから,想像力を知性の不可欠な補助手段とみなしている(《省察録》)。D.ヒュームも,〈想像のほとばしりほど理性にとって危険なものはない〉としながら,他方では〈想像力の一般的でより確定した特質〉が悟性にほかならないともいっている(《人性論》)。これらには,ともに,想像力に含まれる矛盾した諸契機を調停しようとする努力が見られる。…
…人間に固有の思考力,認識力は一般に〈知性intellect〉ないし〈理性〉と呼ばれ,古来,規則に従って分析し論証する〈悟性understanding〉,原理・始元を直覚・洞察して総観し統括する〈理性reason〉の二面を含むとされる。本能,感覚,記憶,想像,意志とは区別され,また啓示や信仰に対置されてきた。…
※「悟性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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