悟性(読み)ゴセイ

デジタル大辞泉 「悟性」の意味・読み・例文・類語

ご‐せい【悟性】

物事判断・理解する思考力知性
カント哲学で、理性感性から区別され、感性的所与を総合的に統一して概念を構成し、対象認識する能力
ヘーゲル哲学で、弁証法的な具体的思考の能力である理性に対し、有限的、限定的な規定に立ち留まっている抽象的な思考能力。
[類語]英知人知衆知全知奇知理知理性才知知性故知知恵インテリジェンス

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精選版 日本国語大辞典 「悟性」の意味・読み・例文・類語

ご‐せい【悟性】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [英語] understanding [ドイツ語] Verstand の訳語 ) 一般的に、知的な思考能力をいう。特に、哲学ではカント以後の用法として、理性と感性との中間に位置するものとされ、感覚的内容を結合して概念化し、判断を行なう機能のこと。知性。知力。〔哲学字彙(1881)〕
    1. [初出の実例]「吾人の悟性乃至理性に映ずる世界の姿が」(出典:三太郎の日記(1914‐18)〈阿部次郎〉一)
  3. りこうな性質。さとい生まれつき。
    1. [初出の実例]「学道をして、明道悟性をしめて、此やうならば」(出典:百丈清規抄(1462)三)
    2. [その他の文献]〔趙師秀‐送湯于詩〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「悟性」の意味・わかりやすい解説

悟性
ごせい

広い意味では思考の能力を意味し、感覚的な諸能力、すなわち一般的にいって感性と対立する意味で使われるが、とりわけカント以後定着した今日の用法においては、他方で、より高次の認識能力、あるいは能力一般としての理性(さらにヘーゲルの場合には、なんらかの意味で文化的、集団的なきずなの総体としての精神)に次ぐ位置を占めるものとみなされる。もともと中世哲学の思考において、さらに近世に入っても典型的にはスピノザの場合などには、理性ratioは間接的推論による認識を事とする能力として、低次の感性的直観の能力と高次の知的直観の能力たる知性intellectusの中間に位するものと考えられていた。ところが、とりわけ啓蒙(けいもう)時代以降における神学的形而上(けいじじょう)学の退潮ないし世俗化という時代の潮流に伴って、知的直観といったものを認めないカントを一つの転機とし、また典型ともして、元来は知性intellectusの訳語であったVerstand(ドイツ語)、understanding(英語)、entendement(フランス語)などの語と中世以来の「理性」との間に地位の逆転がおこり、以来「悟性」は、推理の能力としての理性の下位に位置する判断の能力という意味を獲得し、これに従ったヘーゲルの影響の大きさなどもあずかって、この用法が今日までほぼ標準的となったのである。とはいえ、カント以後においても、たとえばシェリングなどは、Verstandの用語を昔ながらの直観的知性の意味で使う場合がままあり、これに知性でなく悟性の訳があてられる場合には(この訳語自体、直覚的悟達の能力という意味がむしろ古来の用法のほうに元来対応するものであったのだが)、読解には細心の注意を必要とする。かつては『人間悟性論』と訳されたロックの著作が、今日では多く『人間知性論』と訳される傾向にあるのも、ロックの場合には中世形而上学への批判的傾向が強く出るとはいえ、なおカント的な理性―悟性の区別の出現以前の時代のものであることを考えると、当を得た処置と考えられよう。訳語の定着整理には、今日の状勢からみて、なおしばらくの年月と曲折を必要とすると思われるが、ことは、単に訳語の問題にとどまらず、近世西欧の思考での大きな転換が絡むものでもあるので、慎重な配慮と検討を必要としよう。いずれにせよ、今日では、古典的形式論理学がもはや歴史的なものと化した以上、カント的な理性―悟性の区別が生きたものとしてそのまま使われることはない。

[坂部 恵]

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百科事典マイペディア 「悟性」の意味・わかりやすい解説

悟性【ごせい】

ドイツ語Verstandの訳。感性理性と対比させるカント哲学の用語とされることが多い。カントは感性によって与えられる素材を,カテゴリー(範疇(はんちゅう))によって整理し対象を構成する主観的能力とし,理性が悟性作用を統一するとした。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「悟性」の意味・わかりやすい解説

悟性
ごせい
understanding; entendement; Verstand

広くは理解力を,より厳密には感覚および理性 ratioに対置された知的能力をさす。プラトン,アリストテレスでは,上級な対象を直接的,直観的にとらえる知的能力ヌース nous; noēsisに対して,より下級な推論を伴う間接的な認識能力ディアノイア dianoia; epistēmēが区別されているが,後者が悟性に相当する。カントによれば悟性はカテゴリー (→範疇 ) によって感覚素材を再構成する機能とされ,原理についての認識ではなく,推理過程の知的作用とされた。

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普及版 字通 「悟性」の読み・字形・画数・意味

【悟性】ごせい

知性。

字通「悟」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の悟性の言及

【想像力】より

… 近世においては,例えばデカルトは,想像力による数学的命題の証明を否認しながらも,それが純粋知性の洞察を形象的に直観化してくれるところから,想像力を知性の不可欠な補助手段とみなしている(《省察録》)。D.ヒュームも,〈想像のほとばしりほど理性にとって危険なものはない〉としながら,他方では〈想像力の一般的でより確定した特質〉が悟性にほかならないともいっている(《人性論》)。これらには,ともに,想像力に含まれる矛盾した諸契機を調停しようとする努力が見られる。…

【理性】より

…人間に固有の思考力,認識力は一般に〈知性intellect〉ないし〈理性〉と呼ばれ,古来,規則に従って分析し論証する〈悟性understanding〉,原理・始元を直覚・洞察して総観し統括する〈理性reason〉の二面を含むとされる。本能,感覚,記憶,想像,意志とは区別され,また啓示や信仰に対置されてきた。…

※「悟性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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