改訂新版 世界大百科事典 の解説
アコースティック・エミッション
acoustic emission
固体が塑性変形や破壊する際に,固体内にひずみの形で蓄えられていたエネルギーが弾性波(音波)の形で放出される現象。しばしばAEと略称される。金属,セラミックス,岩石など固体材料および構造物の非破壊検査法,これらの塑性変形や破壊現象の研究手段として利用される。可聴音の例としては金属スズを曲げたときに発生するスズ鳴りtin cryが有名であるが,一般には超音波であって,固体試料にAE変換子を付けて電気的に検出する。一般に物体が壊れる前にその内部では非常に微細な割れが発生し,それが成長して破壊にいたる。この割れがAEの発生原因となり,また割れにいたる前に局部的に集中して生じる塑性変形もAEの発生原因となる。AEは変形あるいは割れが生じているそのときのようすを反映しているので,これを計測することにより,これら変形や割れについての貴重な情報が得られる。利用されるAE情報の種類としては,AE計数率,AE計数の総数,振幅,振幅分布,実効値,波形・周波数スペクトル,時間差(複数個の変換子への到着時間差でAE発生位置の標定を行う)などがある。材料研究では,引張試験時に検出されるAEからの変形機構の検討,疲労試験での割れの発生の検出,脆性(ぜいせい)破壊での割れの発生と伝播の研究などに利用される。また,溶接時に溶接部から発生するAEや,溶接後に溶接部から発生するAEは,溶接の研究や管理に利用される。大型の構造物については,その健全性の診断法の一つとして利用される。耐圧試験時にAEを計測することにより耐圧試験をモニターしたり,また稼働中にAEを計測してその健全性を確認したりすることができる。
執筆者:大久保 忠恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報