改訂新版 世界大百科事典 「面接交渉権」の意味・わかりやすい解説
面接交渉権 (めんせつこうしょうけん)
right of access
visiting right
離婚後,親権または監護権を有しない親が,別れた子と面会し,あるいは手紙,電話などを通じて交渉する権利。訪問権ともいう。
面接交渉権は欧米諸国では古くから法律上認められてきた(たとえばイギリスでは1839年法以来)権利である。しかし日本では,従来,〈家〉制度的な考え方から,離婚により子と別れても,陰ながら子の成長を見守ることが真の愛情ある親の姿とされ,離婚後の親子の接触はほとんど問題とされなかったため,法律も面接交渉権を正面から認める規定をもたない。ところが,近年の核家族化の進展,父母の平等観念の普及,出生率の低下などから,離婚の際の子の引取り,親権の帰属などをめぐる争いが激化し,これに伴って,現実に子の監護・教育に当たれなくとも,せめて子と接触し,愛情を示す機会をもちたいと訴える親が多くなった。日本の面接交渉権は,このような背景のもとに,1965年ころから,家庭裁判所の審判例において認められるようになった権利である。
面接交渉権は一般に親として当然に有する権利(一種の自然権)とされる。このような性格づけは,別れた子との接触に否定的な国民感情のもとで,しかも多くは母親がその犠牲となってきた実情のもとでは,それなりの意味はあった。しかし,この権利が承認された当時からすでに,離婚後,子を母親が引き取るケースは増加傾向にあった(現在は7割)し,その後,相手に対するいやがらせのためとか,子の養育費との引換えに求めるとか,面接交渉権の悪用もみられ,また欧米諸国の経験についての検討も進められた結果,面接交渉権を子どもの権利として構成しようとする試みも進んでいる。
子との面接交渉を認めるかどうか,認める場合の頻度,期間,場所その他の具体的方法の決定は,第一次的には父母の協議でなしうるが,協議が調わないときは家庭裁判所での調停・審判にゆだねることができる(民法766条参照)。子は親を知り,その愛情を期待する権利をもつし,自己の健全な人格形成,福祉の増進を求める基本的人権を有すると考えられるから,いずれの方法で決定するにしろ,それに対応して,その判断においてはつねに子の福祉が最優先されなければならない。
アメリカなどでは,週末ごととか夏休みの全期間の面接交渉を認める事例も少なくなく,こうした実情から監護する側の親子間の愛情の継続性を破壊するなどを理由に,この権利に否定的な学説も有力である。しかし,離婚は親子関係まで解消するものではなく,子の福祉に必要なかぎりで父母の協力による子の監護は望ましいし,ことに〈家〉制度的な発想を否定し,新しい親子関係を確立するためにも,日本では今後とも積極的に面接交渉権を承認する方向に向かうべきであるように思われる。しかし,この権利の健全な発展は,父母が離婚の際の不和葛藤をのり越え,いかに子の福祉のための協力態勢をつくりうるかにかかっている。
執筆者:川田 曻
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報