日本大百科全書(ニッポニカ) 「革命権」の意味・わかりやすい解説
革命権
かくめいけん
right of revolution
西欧中世における抵抗権の思想を徹底し、西欧近代市民社会の成立時にジョン・ロックによって明確にされた、圧政に対する政治革命を人民の根源的権利として定式化する思想。ロックにおいては、所有権保障のために契約により設立された公的統治機関が、市民の信託に反して被治者の自由と財産を侵害する圧政を行った場合、全体としての市民が最終的権利としてこの政治を打倒することができるものとされた。1776年のアメリカ独立宣言は、「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等につくられ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦(てんぷ)の権利を付与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる。また、これらの権利を確保するために人類の間に政府が組織されたこと、そしてその正当な権力は被治者の同意に由来するものであることを信ずる。そしていかなる政治の形態といえども、もしこれらの目的を毀損(きそん)するものとなった場合には、人民はそれを改廃し、彼らの安全と幸福をもたらすべしと認められる主義を基礎とし、また権限ある機構をもつ、新たな政府を組織する権利を有することを信じる」とこれを明示し、さらに「永く永続した政府は、軽微かつ一時的な原因によっては変革されるべきでないことは、慎重な思慮の命ずるところである。したがって、過去の経験もすべて、人類が災害の耐えうる限り、彼らの年来従ってきた形式を廃止しようとせず、むしろ耐えようとする傾向を示している。しかし、連続せる暴虐と簒奪(さんだつ)の歴史が明らかに一貫した目的のもとに、人民を絶対的暴政のもとに圧倒しようとする企図を表示するに至るとき、そのような政府を廃棄し、自らの将来の保安のために新たなる保障の組織を創設することは、彼らの権利であり義務である」と、革命を権利としてのみならず義務としても規定している。フランス革命の山岳党憲法における権利宣言(1793)でも、「圧制に対する抵抗はそれ以外の人権の帰結である」(33条)と抵抗権を規定したのちに、「政府が人民の権利を侵害するときは、反乱は、人民および人民の各部分のための権利のもっとも神聖なものでありかつ義務のもっとも不可欠なものである」(35条)とうたいあげた。今日、実定法上の権利としての革命権はみられなくなったが、資本主義であれ社会主義であれ、民意からかけ離れた国家と政府を打倒する人民の権利は、人民主権の民主主義的正統性により事実上担保されていると考えられる。
[加藤哲郎]