(5)顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA) 概念
顕微鏡的多発血管炎 (MPA)は,PANにきわめて類似した臨床経過をとるが,動脈は肉眼的には正常であり,顕微鏡的観察により小・細動脈,毛細血管,細静脈に壊死性血管炎を認める.わが国ではMPAの患者数はPANより多いと推定されているが,2011年の推定患者数はMPA+PANの合計で約8900名であった. 病理
小血管(毛細血管,細静脈,細動脈)の壊死性血管炎で,小~中動脈の動脈炎を伴うこともある.皮膚の触知可能な紫斑の病理像は,図10-8-4に示すように,真皮の細動脈〜毛細血管にかけて血管外に遊走した白血球の核破壊像やフィブリノイド壊死である(白血球破砕性血管炎).好発臓器は腎と肺で,前者では壊死性半月体形成性糸球体腎炎,後者では肺毛細血管炎(図10-8-5)がみられる.いずれの病変部位にも免疫複合体の沈着を認めない(これを寡免疫pauci-immuneという). 臨床症状
MPAも全身性の壊死性血管炎であり,PANと同様に,全身症状とともに小血管の障害による症状(表10-8-2-Ⅱ)を呈する.全身諸臓器の症状がみられるのが特徴であるが,特に腎と肺に好発する.腎では壊死性半月体形成性糸球体腎炎による急速進行性糸球体腎炎の臨床像を呈する.肺では,細動脈炎,毛細血管炎,細静脈炎の結果,肺胞出血や間質性肺炎をきたす.皮膚症状としては丘疹,紫斑,網状皮斑がよくみられるが,特に下腿に好発するいわゆる触知可能な紫斑 (palpable purpura)は特徴的である. 検査成績
PANと同様に赤沈亢進,CRP陽性,白血球増加,血小板増加がみられるが,PANと異なり糸球体腎炎所見(血尿,蛋白尿,円柱尿)が高頻度にみられるのが特徴的である.血清学的にはP-ANCA,特にMPO-ANCAが50〜75%に陽性になる.生検により小血管(細動脈,毛細血管,細静脈)の壊死性血管炎や壊死性半月体形成性糸球体腎炎を認める.肺胞出血の症例では,胸部CTでびまん性の細粒状〜網状陰影をみる(図10-8-6). 診断・鑑別診断
診断は上記の症状,組織所見,MPO-ANCAの陽性によりなされる.PANと異なり動脈造影が診断の決め手となることはない.MPAの鑑別診断においてはPAN,ほかのANCA関連血管炎,および,抗GBM病(Goodpasture症候群)が重要である.
PANとMPAはいずれも全身性の壊死性血管炎であり共通の臨床症状を呈することが多いが,両者は病因論的には明らかに異なる疾患単位であり,罹患血管のサイズや好発臓器,ANCAの出現様式も異なり,表10-8-3に示したような臨床像の差異がみられる.
抗GBM病(Goodpasture症候群)も急速進行性糸球体腎炎,肺出血をきたし,MPAと鑑別を要するが,抗糸球体基底膜抗体(anti-glomerular basement membrane antibody:抗GBM抗体)の出現が特徴的である(【⇨11-5-10)】Goodpasture症候群).腎生検における蛍光抗体法ではIgGが基底膜に沿って線状に沈着し,これがMPAの糸球体腎炎(pauci-immune)との鑑別点である. 経過・予後
わが国のMPAの症例は発症後6カ月以内に30%が死亡するが,1年目以降の死亡率は低下する.病型による差がみられ,全身型,肺腎型は予後不良であるが,腎限局型の予後は良好である.MPAの3大死因は感染症,肺出血,腎不全である. 治療
全身型と限局型で治療方法が異なる.全身型では大量のプレドニゾロン(1 mg/kg/日)が経口投与され,症例によりメチルプレドニゾロンパルス療法も行われる.高度の血管炎を呈する重症型には,免疫抑制薬としてシクロホスファミド(経口または間欠静注)療法を併用する.高齢者や感染のリスクの高い症例では投与量を減じたり,血漿交換療法を併用したりすることがある.急速進行性腎炎型では抗凝固・抗血小板療法を併用する.
一方,腎限局型では中等量のプレドニゾロン経口を原則とし,適宜,シクロホスファミドあるいはアザチオプリン経口,および抗凝固,抗血小板療法を併用する.
寛解が導入されたあとの維持療法においては,再発と副作用の出現に留意すべきである.原則として初期治療後6カ月〜2年間,少量のプレドニゾロン経口が続けられ,難治例では少量の経口アザチオプリンが併用される.[尾崎承一] ■文献
Falk RJ, et al: Granulomatosis with polyangiitis (Wegener's): An alternative name for Wegener's granulomatosis. Ann Rheum Dis, 70: 704, 2011.
Jennette JC, Falk RJ, et al: 2012 revised international Chapel Hill consensus conference nomenclature of vasculitides. Arthritis Rheum, 65: 1-11, 2013.
Mukhtyar CL, et al: EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis, 68: 310-317, 2009.