改訂新版 世界大百科事典 「高エネルギー天文学」の意味・わかりやすい解説
高エネルギー天文学 (こうエネルギーてんもんがく)
high energy astrophysics
電波天文学が誕生するまでの長い間,天文学は光に頼ってきた。星の光,ほとんどの星雲の光は熱放射によるものである。電波天文学によってシンクロトロン放射による電波が観測されるようになり,また例えば,かに星雲の光の連続スペクトルもシンクロトロン放射によるものであることがわかってきたことから,〈熱い〉星やガスの熱放射以外の〈非熱的〉電磁波が天文学の対象になってきた。シンクロトロン放射は磁場の中を通る高エネルギー電子によってつくられるものである。最近ではわれわれの銀河系外の活動する銀河の中心核,とくにクエーサーなどに活発な非熱的プロセスが働いていることが見られるようになった。
1962年に生まれたX線天文学はその後急速に発展し,銀河系の内外のほとんどあらゆる活動する天体にX線が見られ,X線の放射はあらゆる階層の天体の活動の表現であろうかと考えられるようになっている。宇宙線はその発見以来4分の3世紀をこえ,この間素粒子物理学,地球物理学,太陽系の物理学に重要な役割を果たしてきたが,一方,その起源,加速の問題,また宇宙空間のプローブとして宇宙物理学に深いかかわりをもっている。このように伝統的な天文学の対象だった〈熱い〉星やガスとは別に,荷電粒子の加速,高エネルギー粒子による加熱,非熱的な電磁波の放射などのかかわる電波,X線,γ線,赤外線,宇宙線などの分野,あるいはその一部を必ずしも直接厳密な意味での高エネルギー現象が含まれていなくても高エネルギー天文学と呼んでいる。
執筆者:小田 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報