エネルギーが数百keVより高い電磁波(γ線)による天文学。このようなγ線は,宇宙線(高エネルギー原子核)が星間ガスと衝突してつくり出す中性π中間子の崩壊や,宇宙線電子(高エネルギー電子)の星間ガスとの衝突による制動放射,星の光との衝突による逆コンプトン効果でつくられると考えられている。しかしながら,その強度が非常に微弱であるため,宇宙線自身およびそれが大気中や観測器の中でつくる二次γ線に妨げられてその検出は困難をきわめた。
1970年代に入り,人工衛星による観測が始まり,SAS-II(アメリカ),COS-B(ヨーロッパ)などによって,初めて銀河γ線の全天観測が行われた。その結果,銀河系中の宇宙線と物質の分布について貴重な情報が得られた。一方,原爆実験探査衛星によって偶然発見された宇宙空間のγ線バーストは,数秒から数十秒間の短時間に大量のγ線が放射される奇妙な現象であるが,その発生場所,発生機構についてはよくわかっていない。また電子対消滅や核反応に伴うラインγ線の検出も銀河中心や太陽フレアなどで始まっている。
このようにγ線天文学は始まったばかりであるが,宇宙線と異なり直進性があり,宇宙における高エネルギー現象の解明には欠かせぬ手段である。
γ線の検出は,それが物質との相互作用によってつくる二次荷電粒子の検出によって行われる。例えばコンプトン効果でつくられる二次電子や,電子対生成によってつくられる対電子をシンチレーターや,スパークチェンバー,原子核乾板などの荷電粒子検知器によって測定する。当然のことながら,宇宙線やそれがつくり出す二次粒子など本来の荷電粒子にもこの検出器は感応する。そこでこれらの事象を除くため,観測器の周囲をプラスチックシンチレーターなどで囲み,このシンチレーターには感応しない成分(γ線)のみをとり出すという方法がとられる。
γ線のエネルギーの決定は,二次荷電粒子のエネルギーの総和をCsIシンチレーターなどで測定したり,また対電子の開角(エネルギーに反比例)を測定したりして推定する。一方,透過性のよいγ線は測定器の視野を絞ることがむずかしく,到来方向を正確に決めにくい。しかしながら,エネルギーの高いγ線の場合,電子対生成でできる対電子の開角が狭く,その進行方向をスパークチェンバーや原子核乾板などによって測定して到来方向を決めることができる。
このような手法を,観測目的や精度に応じて組み合わせて,γ線のエネルギーや到来方向を測定するいわゆるγ線望遠鏡がつくられている。
1997年末現在,γ線バーストの発生場所,発生機構は依然として謎につつまれている。日本の〈あすか〉X線衛星,アメリカのγ線衛星〈コンプトン〉に搭載されたBATSE検出器などが活発にその謎の解明に努めている。
執筆者:小田 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
宇宙からくるγ線を観測して天体現象を研究する天文学の新分野。γ線は透過性が強い放射線で、波長の短い電磁波である。その波長は可視光線の5万分の1以下、エネルギーに換算すると数百キロ電子ボルト(keV)以上の電磁波をさすことが多い。
γ線天文学はX線天文学より早くから注目されていたが、宇宙からくるγ線の強度が弱いことと、検出の困難さのため、急速には発展しなかった。その後、ヨーロッパやアメリカでγ線天文衛星が打ち上げられ、活動性の高い天体からγ線が観測されるようになった。最近では地上の空気シャワー方式で、1兆電子ボルト程度の超高エネルギーγ線が、BL Lacタイプの活動銀河や周期の短い単独のパルサーからの観測に成功している。
今日では、回転エネルギーを使ってX線も放出している若いパルサーや活動銀河核からγ線が観測されている。そのなかで、かに星雲のパルサーから発生するものは典型的なものであり、銀河系のγ線源の多くは、超新星の残骸(ざんがい)に関係していることが明らかになってきた。宇宙でのγ線は高温・高エネルギー状態にある天体や、高エネルギー粒子の衝突でつくられるとされている。したがって、中性子星やブラック・ホールを伴った天体がγ線の発生に関与していることが考えられる。このほか、広がった空間や背景放射のγ線も観測されている。これらは高エネルギー粒子の衝突で発生するγ線とか、高エネルギー電子が寄与するγ線と解釈されている。最近では、巨大ブラック・ホールをもつ活動銀河核から放出されるジェットに伴ったγ線も観測されている。
宇宙γ線源のうち、普段はγ線はもちろんのこと、電波も光も検出されていない天体のなかに、数秒間爆発的にγ線を放出するものがある。これをγ線バーストとよぶ。γ線バーストの存在は1973年に発表され、それ以降、2000個以上みつかっているが、短時間しか放射されないため、その位置をつきとめることが困難である。2000個以上に及ぶγ線バーストの天空での分布は、全天に一様である。このことからγ線バースト源は銀河系外の遠い天体からのものであると考えられている。最近、数分角の位置精度で決めたγ線バーストの方向を、爆発の数時間後にX線や光で観測したところ、かすかな残光がみつかったものがある。しかし、その方向に既知の天体や銀河はみつかっていない。γ線バーストの正体はまだ謎に包まれている。
[松岡 勝]
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