ニュートリノ天文学(読み)ニュートリノテンモンガク

デジタル大辞泉 「ニュートリノ天文学」の意味・読み・例文・類語

ニュートリノ‐てんもんがく【ニュートリノ天文学】

太陽など恒星の中心部で起こる核融合反応に伴って発生するニュートリノを観測して、恒星の進化などを探ろうという天文学の新分野。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニュートリノ天文学」の意味・わかりやすい解説

ニュートリノ天文学
にゅーとりのてんもんがく

ニュートリノを使って天体現象を研究する学問の総称。宇宙ニュートリノには、(1)恒星内部における反応で発生するもの、(2)星間空間において宇宙線と物質との衝突によって発生するもの、(3)宇宙初期の高温・高密度の状態からの残存ニュートリノ、の三つがある。

 (1)についてはこれまで太陽からのニュートリノと超新星1987Aからのニュートリノが実際に観測されている。恒星の内部では核融合反応、高温プラズマ中の衝突反応などによりニュートリノが発生するが、ニュートリノは反応率が非常に小さいため検出が困難であり、現実的には太陽以外の観測はほとんど不可能である。星の進化の最終段階におこる超新星爆発では、星が一生を通じて放出する光のエネルギーの10倍ものニュートリノが数秒間で放出される。超新星ニュートリノは1987年に大マゼラン星雲の超新星爆発1987Aで発生したものが、岐阜県吉城(よしき)郡神岡町(現、飛騨(ひだ)市神岡町)の神岡鉱山にある水チェレンコフ検出器(水中で高速移動する荷電粒子が放出するチェレンコフ放射光を検出する装置カミオカンデとよばれる)で観測された。これは恒星進化の理論の重要な検証となるものであった。カミオカンデでの観測は、その後より大型化した装置スーパーカミオカンデに引き継がれている。

 (2)では衝突でできる荷電π粒子(かでんパイりゅうし)の崩壊によってニュートリノが発生する。宇宙線は銀河系の星間空間に存在するとともに、パルサークエーサー、γ線バースト(ガンマせんばーすと)(強いγ線が爆発的に放射される現象)などの活動天体にも大量に存在する可能性があるので、これらの活動天体は強いニュートリノ源であるかもしれない。この可能性を探るために、海水や南極の氷などを検出器とする高エネルギーニュートリノ観測が行われている。

 (3)はビッグ・バン宇宙論によって、現在の宇宙では1立方センチメートルに約300個の非常に低エネルギーのニュートリノが宇宙を満たしていると予言されているが、まだ検出はされていない。

 ニュートリノには、電子ニュートリノ、μニュートリノ(ミューにゅーとりの)、τニュートリノ(タウにゅーとりの)の3種類があるが、太陽ニュートリノ大気ニュートリノの研究によって、ニュートリノが相互転換するニュートリノ振動の存在が明らかになっている。質量とともに振動もニュートリノ天文学の研究課題になっている。

 なお、カミオカンデを考案、建設へと導いた物理学者小柴昌俊(こしばまさとし)は、2002年「宇宙ニュートリノの検出にパイオニア的貢献」をしたと評価され、アメリカのレイモンド・デービスとともにノーベル物理学賞を受賞した。

[高原文郎・山崎 了]

『桜井邦朋著『現代天文学が明かす宇宙の姿』(1989・共立出版)』『小柴昌俊著『ニュートリノ天文学の誕生――素粒子で宇宙をみる』(1989・講談社)』『パリティ編集委員会編『宇宙物理――物理法則と宇宙の構造』(1989・丸善)』『桜井邦朋編『高エネルギー宇宙物理学――宇宙の高エネルギー現象を探る』(1990・朝倉書店)』『小平桂一編『新しい宇宙像の探究』(1990・岩波書店)』『日本物理学会編『現代の宇宙像――宇宙の誕生から超新星爆発まで』(1991・培風館)』『パリティ編集委員会編『宇宙物理2 ホーキングから高エネルギー天体現象まで』(1991・丸善)』『中村健蔵著『ニュートリノで探る宇宙』(1994・培風館)』『川崎雅裕著『謎の粒子――ニュートリノ』(1996・丸善)』『日本物理学会編『ニュートリノと重力波――実験室と宇宙を結ぶ新しいメディア』(1997・裳華房)』『山田克哉著『はたして神は左利きか?――ニュートリノの質量と「弱い力」の謎』(2001・講談社)』『家正則監修『21世紀の宇宙観測』(2002・誠文堂新光社)』『ジョン・グリビン著、樺沢宇紀訳『ニュートリノは何処へ――宇宙の謎に迫る17の物語』(2002・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『田賀井篤平編『ニュートリノ――小柴昌俊先生ノーベル賞受賞記念』(2003・東京大学総合研究博物館、東京大学出版会発売)』『小山勝二・嶺重慎編『ブラックホールと高エネルギー現象』シリーズ現代の天文学8(2007・日本評論社)』『井上一・小山勝二・高橋忠幸・水本好彦編『宇宙の観測〈3〉――高エネルギー天文学』シリーズ現代の天文学17(2008・日本評論社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニュートリノ天文学」の意味・わかりやすい解説

ニュートリノ天文学
ニュートリノてんもんがく
neutrino astronomy

天体の放射するニュートリノを観測する天文学の一部門。ニュートリノは電子に作用する電子ニュートリノとμ中間子 (→μ粒子 ) に作用するμ中間子ニュートリノ,およびそれらの反粒子とが存在する。ニュートリノは物質にほとんど吸収されない。太陽の中心で起る核反応の結果,電子ニュートリノが放射されるが,太陽をつくる物質にさえぎられることなく外に飛出す。そのためニュートリノを使えば太陽や星の中心を直接見ることができる利点はあるが,逆に,ニュートリノを検出するのは困難である。それには巨大な装置が必要である。 1964年に R.デイビスのつくったものは,アメリカのサウスダコダの金鉱地下 1500mのところに 610tの四塩化エチレンを置いたものである。ニュートリノがくると,塩素は逆β崩壊を起しアルゴンに変化する。このアルゴンは約 35日でβ崩壊し塩素に戻るが,このとき陽電子が放出されるので,これを検出すれば太陽からやってくるニュートリノ量を知ることができる。実験によって求められたニュートリノ量は,陽子・陽子反応から予想された値の約 10分の1しかなく,現在の太陽モデルが悪いか,または太陽の中心で核反応が一時休止しているのではないかと推定されている。太陽のほかに,星は超新星爆発を起す寸前にニュートリノ放射をすると考えられ,87年には大マゼラン雲の超新星爆発に伴うニュートリノが検出された。

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知恵蔵 「ニュートリノ天文学」の解説

ニュートリノ天文学

宇宙の様子を、飛来する素粒子ニュートリノで知る天文学。小柴昌俊ら日米グループは、大マゼラン雲の超新星が放ったニュートリノを1987年2月、岐阜県・神岡鉱山地下の素粒子観測装置カミオカンデで捕まえた。超新星は星の末期の爆発現象で、重い星が自らの重力で崩壊して起こる場合はエネルギーの大半をニュートリノの形で放出するとされる。その物証となった。2002年、ノーベル物理学賞に結実。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

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