改訂新版 世界大百科事典 「高圧鉱物」の意味・わかりやすい解説
高圧鉱物 (こうあつこうぶつ)
high-pressure mineral
高圧環境のもとで生成した鉱物,あるいは高圧下でのみ安定な鉱物。ダイヤモンドは典型的な高圧鉱物である。高圧鉱物を手がかりに,それを含んだ岩石を生成した圧力環境を推定することができる。われわれが観察できる地球表層の岩石は,その生成過程により,火成岩,堆積岩,変成岩に分類されるが,変成岩の中には,既存の岩石が地殻深所で高温高圧の作用を受けて鉱物組成を変えて生じたものがある。地殻を構成する岩石中の高圧鉱物は,そのようにして生成した変成岩に見られる。ラン晶石,ヒスイ輝石,パイロープ等は,いずれもその生成に数千気圧ないし2万~3万気圧を必要とする代表的な変成岩中の高圧鉱物である。
層状構造をとる地球内部で,地殻の底(平均の深さ35km)から核に接する深さ2900kmまでの部分はマントルと呼ばれ,主としてケイ酸塩鉱物から構成されている。マントルの圧力は約1万気圧から140万気圧に及び,多くの造岩鉱物は,このような高圧下で順次高密度の構造に転移する。マントル内には,このような高圧誘起の相転移の結果生じた多くの高圧鉱物が存在すると信じられている。それでは,われわれが直接到達することの不可能なマントル深部を構成する高圧鉱物は,どんな方法で推定できるだろうか。正攻法は,いろいろなモデル岩石,鉱物を実験室内で超高圧高温状態におき,その環境で安定な鉱物相を確定し,それらの密度,弾性定数を実測し,地震波の伝搬の様子の解析から導かれる観測値と比較して,もっともよく一致するモデルを選び出す方式であろう。最新の超高圧実験技術は,数mgの試料を千数百℃の高温で約30万気圧に加圧することを可能にし,数μgの試料なら,室温で最高170万気圧にまでも圧縮することができる。このような超高圧高温実験技術を駆使して,地球の上部マントルを構成する主要な造岩鉱物として知られるカンラン石,輝石,ザクロ石は,それぞれ以下の順序で下記の高圧鉱物に転移することが確定された。すなわち,カンラン石(Mg,Fe)2SiO4は地下約400kmの深さで変型スピネル相に,また,500~550kmの深さでケイ酸塩スピネル相に転移する。このスピネル相も,650~700kmの深さで(Mg,Fe)SiO3のペロブスカイト相と岩塩構造の(Mg,Fe)Oに分解する。この相転移過程であらわれる変型スピネル,ケイ酸塩スピネル,ケイ酸塩ペロブスカイトは典型的な高圧鉱物である。ケイ酸塩スピネルは隕石中に衝撃高圧起源の鉱物として実際に見いだされ,リングウッダイトringwooditeという名称が与えられている。一方,輝石とザクロ石は地下約200km以深では反応して,しだいに複雑な化学組成のザクロ石構造の鉱物に変わり,最終的にはペロブスカイト相に転移する。またダイヤモンドの母岩であるキンバーライト中に高圧鉱物として産するザクロ石の化学組成から,キンバーライトの生成した深さを決定することができる。シリカSiO2の常圧相鉱物は石英であり,高圧下ではコーサイト,スティショバイトの順に転移する。高圧鉱物のコーサイト,スティショバイトは隕石孔で発見されている。これは隕石が地球に衝突した際に,堆積岩中の石英が高圧転移して生成したものである。スティショバイトは下部マントルを構成する最重要鉱物と考えられたこともあるが,最近の研究はこの説に否定的な結果を与えている。
→超高圧
執筆者:秋本 俊一
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