改訂新版 世界大百科事典 「カンラン石」の意味・わかりやすい解説
カンラン(橄欖)石 (かんらんせき)
olivine
重要な造岩鉱物の一つであり,斜方晶系に属し,化学組成はR2SiO4(ここでRはMg,Fe,Mn,Caなど)で表される一群の鉱物の総称である。端成分はフォルステライトforsterite(苦土カンラン石)Mg2SiO4,フェアライトfayalite(鉄カンラン石)Fe2SiO4,テフロアイトtephroite(テフロ石)Mn2SiO4とモンチセライトmonticellite CaMgSiO4と名付けられている。天然産のもののほとんどすべてはフォルステライトのMgのうちの一部分(5~40%)がFeによって置換されたものであり,それらのものを単にカンラン石(フォルステライト-フェアライトの固溶体系列)と呼ぶことが多い。カンラン石は一般に淡黄緑色,暗緑色ないし褐色であって,粒状,短柱状または不規則な外形を示す。比重3.222~4.392,モース硬度7~6.5,{010}と{100}に弱いへき開があり,不規則な割れ目が多い。塩酸に容易におかされる。
玄武岩や斑レイ岩などの塩基性火成岩にしばしば出現し,カンラン岩やキンバーライト,さらにはコンドライトには60%以上含まれている。ドロマイト質大理石や結晶片岩にも見いだされる。変質しやすい鉱物であって,そのまわりや割れ目に沿って蛇紋石に変わる。
フォルステライトは融点が非常に高く1890℃で接触変成作用を受けた石灰岩のなかに,フェアライトは融点1205℃でまれにペグマタイトやアルカリ岩に出現することがある。テフロアイトは比重3.5,モース硬度6.5,1340℃で分解融解する。比較的まれな鉱物でマンガン鉱床に産する。モンチセライトは比重3.1,モース硬度5.5,石灰質岩石の高温接触作用によって生じ,またアルカリ岩に含まれていることがある。
カンラン石族は高圧下ではより緻密(ちみつ)な結晶構造に相転移する(同質多形)。すなわち1000℃においてはフォルステライトは125kbarでカンラン石構造(α相)から斜方晶系の変型スピネル(β相),200kbarで変型スピネルから立方晶系のスピネル構造(γ相)に転移(図),さらに280kbarでMgSiO3(ペロブスカイト構造)+MgO(岩塩構造)に分解する。一方,フェアライトは60kbarでカンラン石(α相)からスピネル構造(γ相)に,200kbarで2FeO(岩塩構造)+SiO2(ルチル構造)に分解する。
地球内部においてはカンラン石(フォルステライト90%,フェアライト10%)は上部マントル(大陸地域は約35~400km,海洋地域は約10~400km)までの主要鉱物であって,その約60~70%を占めているが,380~420kmでカンラン石から変型スピネル,500~600kmで変型スピネルからスピネル構造へ,さらに650~700kmでスピネルが分解してペロブスカイト+岩塩構造鉱物に変わると考えられている。カンラン石組成のスピネルは地球上では未発見であるが,宇宙空間で衝突した隕石から発見され,リングウッドアイトと命名されている。
鉱物名はオリーブの実の色(オリーブ色)に似ていることからオリビンと名付けられた。一方,オリーブは別種の植物である橄欖と誤訳され,それに従い鉱物名も〈橄欖石〉と訳された。
透明な暗緑色の美しいカンラン石は古代から宝石として用いられ,ペリドットperidotと呼ばれる。最高級品質のものは紅海のゼビルゲットZebirget島(セント・ジョンズ島)と北ミャンマーであり,そのほかノルウェー,オーストラリア,ブラジルやアメリカからも産出する。
執筆者:青木 謙一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報