日本大百科全書(ニッポニカ) 「高学歴ワーキングプア」の意味・わかりやすい解説
高学歴ワーキングプア
こうがくれきわーきんぐぷあ
修士や博士の学位をもつか、大学院で同程度の単位を取得したにもかかわらず、学歴を生かした職種や正規雇用の職につくことができず、賃金水準の低い不安定な雇用状態で生計をたてている人のこと。弁護士や医師などの国家資格を取得したものの、仕事が得られない人をさす場合もある。学歴難民ということばと同じ意味で用いられるが、高学歴ワーキングプアという場合は、博士課程修了程度の高学歴者をさすことが多い。文部科学省が2013年(平成25)に発表した学校基本調査(速報値)によれば、全国の大学で科目単位の有期契約で働く非常勤講師は延べ19万2739人。その多くは大学教員のポストを希望しているが、求人数が少ないため、採用試験を受けながら、月収数万円の非常勤講師や学術機関の任期つき研究員を務める、または、大学の研究室で無報酬の状態で研究を続けるなどしている。
大学審議会は1991年(平成3)に高度産業社会に対応する人材育成を目的として、2000年度までに大学院生を約2倍の20万人に増やすことを提言した。それ以降、大学院生は増えたが、民間企業が高学歴・高年齢の博士号取得者を採用する動きにはつながらず、結果的に就職できないまま卒業する若者を増やすことになってしまった。また、こうした動きに加えて、1990年代以降には、バブル崩壊や就職難の影響から、明確な意義や目的もなく大学院に進学する学生が増えたことも、高学歴ワーキングプアを増やす原因となった。2013年に施行された改正労働契約法で、通算5年を超えて勤務した非正規労働者は、本人が希望すれば期間をくぎらない無期契約に転換できるようになった。しかし、現実には改正の趣旨とは裏腹に、5年間を上限とする雇止めが横行して、高学歴ワーキングプアをめぐる状況をさらに悪化させるのではないかと懸念する声もある。
[編集部]