高山集落(読み)こうざんしゅうらく

改訂新版 世界大百科事典 「高山集落」の意味・わかりやすい解説

高山集落 (こうざんしゅうらく)

高地の土地利用の拠点となる定住集落のことで,中緯度の温帯地方では標高1000m以上,熱帯圏では2000~3000m以上の集落を指す。高地集落高距集落ともいう。

高山集落の機能は都市のような複合的な機能をもつものは少なく,住民の生業により次のように分類される。

(1)高距林業集落 典型的な山村で,住民は完全に山林に依存し,木地屋集落,製炭集落,林業労務者集落が含まれる。宅地を得るには不便な崖錐や山腹傾斜地,狭小な高位段丘上や谷底に位置することが多く,庭園,倉庫などをもたない小規模の家屋,わずかの菜園などからなり,四周を森林に囲まれ,低暖地の農村集落景観とは大いに異なった景観をなす。また住民の山林に対する諸権利には種々の慣行がある。孤立した位置にあるため通婚圏など生活交渉圏は狭く,教育の普及度,文化・情報伝達手段の普及度,担税能力等の水準は一般に低い。

(2)高距農業集落 3類型に分けられる。(a)自給穀作農業集落 戦前まで焼畑が残存していた,坂畑と呼ばれる傾斜畑が多く,機械化,基盤整備が進まず,耕地からの収入不足を山林労務,土木人夫,出稼ぎなどで補っている停滞あるいは後進的な集落である。古い習俗・慣習が残っており,文化水準の特性は(1)の林業集落と同様である。(b)高距蔬菜園芸集落,(c)高距酪農集落 この2類型は,地温,霜害,土壌浸食,凍上現象,凍結・融解による浸食作用等の土地条件等に則応した営農形態をとる集落で,生活水準の向上は目ざましく,農耕・牧牛の機械化など合理的農法を取り入れている。

(3)高距鉱山集落 鉱山関係者の集団で構成される集落。その位置は耕境(経済的に成立しなくなる耕作限界)あるいはそれ以上にあるので,閉山の場合に住民がその生業を替えて,農林業村となることは,たたら集落の場合などを除き困難である。

(4)山小屋集落 最も高標高にあり,土地の直接的生産に依存することがなく,その隔絶的孤立性のために,住民の共同社会生活は他の集落に結合しなくては維持することができない。しかし,観光・山岳道路などの開発は観光・休養を兼ねた山小屋集落の発達を促している。

(5)高距交通集落 (a)峠集落,(b)峠下集落。

(6)高距温泉集落 他の山村に見られるような住民人口の老齢化や過疎化は見られず,観光方面にも力を注ぎ多くの集落は発展傾向にある。

(7)高距観光・休養集落 山地の湖沼や湿原,火山麓の草原,渓谷,史跡の存在に拠る,さらに登山,スキー等のスポーツ拠点としての位置にあり,文化的消費集落として発生・発展した集落。同一行政町村内では他の集落の数倍の担税力があり,村財政等に貢献している場合が多く,到達度が克服可能な場合には耕境以上の高位置にまで立地することが可能である。

(8)高距信仰集落 霊山に位置し,寺社門前町により構成されている。

日本の高山集落の高距限界は時代と共に移動している。17世紀八ヶ岳の西麓に開拓された広原の稗底(ひえぞこ)は1200mの高地で,高山集落の上限であったが冬季酷寒のため放棄された。赤石山地の大鹿村北川は養蚕業の最盛期には集落の上限は1490mに達し,当時は日本最高であったが,1930年代からその上限は下降し,61年の集中豪雨による土石流で壊滅した。第2次大戦後の高距開拓地としては霧ヶ峰農場(1320m)や,笛吹川の一支流琴川の上流の柳平(1500m)がある。共に低暖地農法では失敗したが,試行錯誤の結果,牧牛によって終年定住集落となり得た。また八ヶ岳東麓の野辺山と浅間山北麓の嬬恋西部開拓地は高原蔬菜の出荷によって定住に成功した例である。霧ヶ峰火山の強清水(こわしみず)は諏訪市角間新田の農民の夏季草刈場であったが,山岳・高層湿原観光とスキー客のため1650mの高さにまで宿舎やレクリエーション施設をもつ観光・休養集落となった。日本アルプスには2000m以上の高地にいくつかの山小屋があるが,終年定住の山小屋集落としては水没した廃村有峰があっただけである。秩父多摩国立公園の瑞牆(みずがき)山南麓には戸数2戸の山小屋集落金山(かなやま)がある。標高1410m,耕境にあり第2次大戦前は日本最高の農業集落であるといわれていた。なおその他の高山集落としては軽井沢の峠町(1190m),草津温泉(1220m),平湯(1240m)等のほか,戸隠の信仰集落(1200m)がある。将来,耕境以上の高地に発展の可能性を有するものは高山観光・休養集落であろう。ヨーロッパのアルプスで日本よりも高距に多くの高山集落が見られるのは,アルプスの山塊が大きく,気候条件が異なることと,泥土と草の農業の差によるものと思われる。西アルプスのケイラス高地には穀作農村サン・ベラン(2040m)があり,スイスのバレー州南部ツェルマッテルタールのフィンデレンは2150mの高地にある。スイス南東部アベルス谷のユフは標高2130mで,アルプの野草と肥培採草地による牧牛の村である。アルプスの最高距集落はイタリア側のスペル川水源地の小村レ・バイテで2170mの高山牧場集落である。観光集落ではオーストリアのエッツタールの上流にホッホギュルグル(2150m)とホッホゼルデン(2090m)があり,共にホテルを主体とした集落である。ヒマラヤ山地ではネパール側には穀類を主食とし羊や牛を放牧する村が見え,その高度は中央ネパールの市場集落トゥクチェの2540mから北部のニジュンの3800mまでに及び,トルボ地方のツァルカは4150mに位置するチベット人の農牧村である。熱帯アンデスではチチカカ湖の北方約100kmにインディオの集落チェカヤニがあり上限は3980mに及ぶ。ボリビアの鉱山集落ではその上限が5000mに及ぶものがあり,気圧が低いので労働者の肺活量は低地の2倍もある。
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