昭和・平成期の小説家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
小説家。明治42年12月21日、福岡県小倉(こくら)市に生まれる。小学校卒業後、給仕、印刷の版下工を経て、1939年(昭和14)朝日新聞西部本社広告部勤務。処女作『西郷札(さいごうさつ)』(1950)が懸賞三等に入選し、翌年直木賞候補作となる。52年(昭和27)9月『或(あ)る「小倉日記」伝』で芥川(あくたがわ)賞受賞。54年東京本社勤務。56年退社、文筆生活に入る。初期のモデル(伝記)小説『或る「小倉日記」伝』、『菊枕(きくまくら)』(1953)、『断碑』(1954)、『石の骨』(1955)は、才能がありながら世に認められず、それゆえに執念を燃焼させてやまない屈折した生に、作家の生の共感がある。一方、犯罪の動機の重視、社会性の導入による推理小説『点と線』(1957~58)、『ゼロの焦点』(1958~60)で、「社会派推理小説」という新分野を開いた。また推理的伝記『鴎外(おうがい)の婢(ひ)』『文豪』や時代小説も注目される。さらにノンフィクションの分野は『日本の黒い霧』(1960)をはじめ、山県有朋(やまがたありとも)を描く『象徴の設計』(1962~63)、中江兆民(ちょうみん)を描く『火の虚舟(きょしゅう)』(1966~67)、菊池寛賞受賞の『昭和史発掘』(1964~71)へと拡大する。その後古代史に注目し、『古代史疑』(1966~67)、『火の路(みち)』(1973~74)を著す。歴史に対する洞察は、『清張通史』(1976~78)へと発展し、NHKテレビ番組『ミツコ――二つの世紀末』の製作と並行して同じ素材で小説『暗い血の旋舞』(1987)を発表した。
[山崎一穎]
『『松本清張全集』全56巻(1971~84・文芸春秋)』▽『『現代文学読本 松本清張 文学編』(1978・清山社)』▽『中谷博著『大衆文学――その本質、その作家』(1973・桃源社)』
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1909.12.21~92.8.4
昭和期の小説家。福岡県出身。本名清張(きよはる)。版下工などをへて朝日新聞西部本社社員となる。1950年(昭和25)「週刊朝日」の懸賞小説に「西郷札」が入選。52年に発表した「或る「小倉日記」伝」で芥川賞受賞。56年から文筆専業となり,「点と線」などの推理小説のほか,「古代史疑」「昭和史発掘」など史実解明にとりくんだ作品もある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…第1は,従来確固として存在していた〈純文学〉と〈推理小説〉の間の境界線が消えたことである。純文学作家が次々に推理小説に筆を染め,松本清張や水上勉のように爆発的人気を呼び,推理小説でデビューした作家が一般の文学賞を取ることも珍しくなくなった。第2は,女性の目ざましい進出である。…
…松本清張の長編推理小説。1958年から60年にかけて《宝石》に連載。…
…《中央公論》は,占領下におきた松川事件について作家広津和郎が冤罪を訴えた《松川裁判》を長期連載したが,1960年秋に深沢七郎のパロディ小説《風流夢譚》を掲載したことが社長嶋中鵬二邸に右翼テロを招く結果となり,天皇制と皇室とについてはみずから口をとざすということを嶋中が明示してしまった(風流夢譚事件)。 戦後の《文芸春秋》は,推理作家松本清張が占領期と昭和戦前の史実にいどんだ《日本の黒い霧》《昭和史発掘》を長期連載するなどドキュメンタリーな方法によって読者を獲得し,国民雑誌という評を得るにいたった。とくに児玉隆也,立花隆を起用して田中角栄首相の政治資金工作をあばいた〈金脈追及〉記事は,在日外国人記者たちの首相会見要求をみちびいてロッキード事件に先立つ田中内閣退陣を実現させた。…
…占領当初は抑圧されていた時代小説も村上元三《佐々木小次郎》(1950‐51)あたりから隆盛に向かう。川英治《新平家物語》,源氏鶏太《三等重役》などで週刊誌小説の新領域を開拓し,やがてテレビ時代の到来に呼応する形で,柴田錬三郎《眠狂四郎無頼控》,五味康祐《柳生武芸帳》なども連作形式を活用して執筆され,新しい読者層のひろがりの上で松本清張の《点と線》《眼の壁》など社会派本格推理の諸作が発表されて,いわゆる清張ブームを生む。時代小説の現代化(マゲをのせた現代物)の方向として南条範夫が現れ,山本周五郎が独得の切りこみを歴史や市井物に見せると同時に,海音寺潮五郎の《武将列伝》など史伝物も迎えられる。…
※「松本清張」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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