民俗芸能。千葉県の広済寺(山武(さんぶ)郡横芝光(よこしばひかり)町虫生(むしょう))に伝わる盆狂言。8月16日、盆の法事のおりに檀家(だんか)の人々が演じる仮面劇。鬼舞(おにまい)ともいう。本堂の前に張り出し舞台を設け、舞台装置として高い櫓(やぐら)を組み、梯子(はしご)を架けた死出(しで)の山をつくる。狂言は7段に分かれ、罪人が地獄で鬼に責められるさまを仕組んだ部分(大序・賽(さい)の河原・釜入・死出の山)と、広済寺の縁起を脚色した物語の部分(和尚道行(おしょうみちゆき)・墓参・和尚物語)からなる。大序は、閻魔大王(えんまだいおう)、倶生神(くしょうじん)、鬼婆、黒鬼、赤鬼が出て、罪の裁きを受けた亡者を責める。賽の河原は、子供たちが小石を積んでいるところに鬼が出る。そこへ地蔵が現れ、子供を救う。釜入は、罪人が釜に入れられて苦しめられる。死出の山は、鬼・鬼婆に責められ山の上に追われた罪人の亡者が地蔵に救われる、という筋である。縁起物語の部分は現在は行われない。同様の鬼舞は、旧香取(かとり)郡の浄福寺(香取市)や同郡の迎接(ごうせつ)寺(成田市)にもあった。
[渡辺伸夫]
千葉県山武郡横芝光町虫生(むしよう)の広済寺で7月16日に行われる,鬼が出現する仮面劇。境内地蔵堂(現在は本堂)に張出し舞台を設け4場の仏教劇を展開する。(1)〈大序〉 閻魔庁で大王が亡者をさばき,鬼が亡者を地獄へ送る。(2)〈賽(さい)の河原〉 鬼に責められる子供の亡者を地蔵が助ける。(3)〈釜入れ〉 鬼が亡者を釜ゆでにする。(4)〈死出の山〉 鬼に亡者が責められていると観音菩薩が出現して助ける。
由来については,鎌倉時代の初期,薩摩の禅僧石屋(せきおく)が虫生の辻堂を宿としたとき,女の亡者が鬼に責められているのを菩薩が現れて救った夢を見た。これが縁で,広く人々に因果応報の理と仏の功徳を悟らせたいという意向で行われるようになったと伝えられる。4場の間に広済寺建立の縁起譚や二十五菩薩来迎の練供養(ねりくよう)などが演じられていた時代もあった。1976年,国の重要無形文化財に指定された。ほかにも利根川周辺に地獄芝居と迎講(むかえこう)を合わせた同系の行事があったが現在は行われていない。
執筆者:中村 茂子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…鬼が勇壮に舞いながら大太鼓を打ち,襲いかかる獅子をはらいのけるしぐさは,悪魔をはらい豊年祈願の意味をもつとされている。 地獄で亡者を責める役柄の鬼は,千葉県匝瑳(そうさ)郡光町の広済寺で行われる鬼来迎(きらいごう)に登場するが,この鬼に責めてもらった病弱な者は,鬼の持つ霊力によって健康になるという信仰もある。地獄の鬼は京都市の壬生(みぶ)寺に伝承されている大念仏狂言の《賽の河原》《餓鬼角力(がきずもう)》にもみられる。…
※「鬼来迎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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