鵜飼(読み)ウカイ

デジタル大辞泉 「鵜飼」の意味・読み・例文・類語

うかい【鵜飼】[謡曲]

謡曲。五番目物。榎並左衛門五郎作。世阿弥改作。禁漁の所で漁をして殺された鵜飼いの霊が、一夜の善行によって閻魔えんま大王に許され、極楽へ送られる。

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精選版 日本国語大辞典 「鵜飼」の意味・読み・例文・類語

う‐かい‥かひ【鵜飼】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 「うがい」とも )
    1. 鵜を使って行なう漁。広くは、四季それぞれ行なうもの、昼間行なうもの、張った網の中に鵜を使い魚を追いこませる追い鵜などにもいうが、一般には、夏の夜、小船のへさきで篝火(かがりび)をたいて鮎などを近寄らせ、鵜匠が鵜の頸(くび)に鵜縄(うじょう)をつけ、水中で魚をのませ、引き上げて吐かせるもの、すなわち獲(とり)鵜をいう。現在では岐阜県長良川の鮎漁がもっとも有名。鵜川(うかわ)。《 季語・夏 》
      1. 鵜飼<b>[ 一 ]</b><b>①</b>〈木曾路名所図会〉
        鵜飼[ 一 ]〈木曾路名所図会〉
      2. [初出の実例]「よさりまでうかひなどして帰給ふ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)楼上下)
    2. を業とするもの。鵜飼人(うかいびと)。鵜匠。鵜使い。鵜人(うびと)。《 季語・夏 》
      1. [初出の実例]「我はや飢ぬ 島つ鳥 宇加比(ウカヒ)が伴(とも) 今助(す)けに来ね」(出典:古事記(712)中・歌謡)
    3. 官名。御厨子所(みずしどころ)の膳部(ぜんぶ)の下役で、御用の魚類などをとる者。
      1. [初出の実例]「御厨子所のうかひの長、院の鵜飼をめしならべて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)藤裏葉)
    4. うかいぶね(鵜飼船)」の略。〔和漢船用集(1761)〕
  2. [ 2 ] 謡曲。五番目物。各流。榎並左衛門五郎作。世阿彌改作。安房の清澄の僧が甲斐の国の石和(いさわ)川を訪れると、殺生の罪で簀巻(すまき)にされた鵜使いの亡霊が現われ、僧に鵜飼の様を語り回向を頼む。僧が鵜使いの霊を弔っていると閻魔(えんま)大王が現われ、亡者が成仏したことを告げる。

鵜飼の語誌

( 1 )「隋書‐倭国伝」には日本の鵜飼が世界最古のものとして記録されている。民間でも広く行なわれたが、「古事記」には鵜飼によって捕った魚を進献するという服属儀礼が記され、鵜飼部が魚を献上する職として登場、令制下では宮内省大膳職に鵜飼が属するなど、宮廷儀礼の一環として位置づけられた。
( 2 )江戸時代には諸藩が鵜飼を保護し鵜匠制度も確立した。明治以後は、皇室の御漁場として保護された岐阜の長良川(現在も宮内庁の保護下にある)以外は、九州など一部に観光用として名残をとどめているにすぎない。


うかいうかひ【鵜飼】

  1. ( 「うがい」とも ) 姓氏の一つ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鵜飼」の意味・わかりやすい解説

鵜飼(漁)
うかい

ウを使ってアユ、コイ、フナなどの魚をとる漁のこと。これにはウの頸(くび)を紐(ひも)で縛り、自由に魚をとらせ、のどに魚がたまったら呼び寄せて吐かせる「放ちづかい」と、のどを縛った首輪と背から腹にかけた腹掛けとをつないだ手縄を持ってウを操り魚をとらせる「つなぎ鵜飼」とがある。なお放ちづかいのとき、ウに魚を追わせ、逃げてきた魚を網などですくいとる「逐(おい)鵜飼」の方法もある。鵜飼の歴史は古く、7世紀の史書『隋書(ずいしょ)』倭国(わこく)伝に北九州あたりの記述として載っている鵜飼は放ちづかいで、第二次世界大戦後まで佐賀県や島根県に冬季放ちづかいの鵜飼を行うものがあった。これに対し『万葉集』に歌われている鵜飼はおそらく夏季のつなぎ鵜飼で、地方の役人たちでこれをスポーツとして楽しむものもいた。鵜飼をスポーツとして楽しむ風は近ごろまで各地の農民の間にもみられたが、その多くは冬季の放ちづかいの鵜飼であった。夏のつなぎ鵜飼は、通例篝火(かがりび)を用いる夜の鵜飼であるが、その効率の優れているため、他の川漁者の反対で夜漁をやめ昼の鵜飼に変わった所もあった。

 平安時代から武家時代にかけて鵜飼は献上アユを供給する源として、君侯の特別な庇護(ひご)を受け、そのおかげで、川筋の広い範囲に鵜飼を行ってきたものが少なくなかった。岐阜長良(ながら)川の鵜飼などもその顕著な例で、明治維新後は宮内省の御用を勤め、厚遇されてきた。「放ちづかい」「つなぎづかい」のいずれも、水中を歩いてウを使うものと、船の上からウを使うものとの区別があるが、夜のつなぎ鵜飼には船上から1人で数羽のウを操る巧妙な技法がみられる。放ちづかいをはじめ簡単な鵜飼にはすぐ慣れて使えるカワウでよかったが、複雑な技法で操る鵜飼には長い訓練に耐えるウミウが使われる。

 鵜飼はその技法が珍しく、これを眺めるのも楽しく、とらえたアユの賞味もできるので、かつてしばしば君侯の上覧に供せられ、民主化が進むにつれて庶民の観光資源として尊重されてきた。今日栄えている鵜飼は、岐阜長良をはじめ、大分の日田(ひた)、福岡の原鶴(はらづる)、広島の三次(みよし)、高知の伊野などみな観光的なものであり、このほかに観光客誘致のため近年復活されあるいは新たに始められた鵜飼もある。

 以上は日本の鵜飼について述べたのであるが、鵜飼は中国大陸でも古くから行われている。東北部の松花江(しょうかこう)などにも鵜飼がみられるが、盛んに行われるのは中国中部の江蘇(こうそ)、安徽(あんき)、浙江(せっこう)から南の福建広東(カントン)、広西の諸省、それに西南辺境の四川(しせん)、雲南においてである。多くは濁った河川運河でコイ、ナマズなど大きな魚をとる実用的な漁であること、いずれも昼間の放ちづかいで、なかには首輪も用いず、ウが魚をとったのをみるとこれを吐かせて手網などですくいとるもののあること、船鵜飼でも竹の筏舟(いかだぶね)を用いるものや、小舟二つをつないだものに片足ずつ乗せてウを使い、この二つの小舟にウを乗せて担ぎ、各地へ移動するもののあること、その使うウはシナカワウで日本のように野生のものをつかまえて訓練するのでなく、人工孵化(ふか)したうえ訓練したもので、ウの卵を人工孵化する専門業者のいることなどを特色とする。

 なお鵜飼は、16世紀から17世紀にかけてヨーロッパにスポーツとして受け入れられたこともあった。

[最上孝敬]

『可兒弘明著『鵜飼』(1966・中央公論社)』『最上孝敬著『原始漁法の民俗』(1967・岩崎美術社)』『『鵜飼の話』(1957・岩波写真文庫)』



鵜飼(能)
うかい

能の曲目。五番目物。五流現行曲。原作は榎並(えなみ)五郎、世阿弥(ぜあみ)改作。行脚(あんぎゃ)の僧(ワキ)が石和(いさわ)川のほとりで宿を借りようとするが、土地の者(アイ)に禁制だと断られる。川辺のお堂に泊まると、鵜使いの老人(前シテ)が現れ、密漁のため殺された亡者だと明かし、罪業消滅にと鵜飼のさまを見せて消える。鵜ノ段とよばれる鮮烈な演じどころである。後シテは閻魔(えんま)大王で、僧の法華経(ほけきょう)による回向の功徳により、亡者を極楽に送ることになったと豪快な所作で終わる。法華経礼賛能である。小癋見(こべしみ)という力感に満ちた面をかけるが、これは世阿弥がこの能に使い始めたものと『申楽談儀(さるがくだんぎ)』に記載がある。

[増田正造]

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改訂新版 世界大百科事典 「鵜飼」の意味・わかりやすい解説

鵜飼 (うかい)

能の曲名。五番目物。鬼物。古作を世阿弥が改作。前ジテは鵜飼いの老人,後ジテは地獄の鬼。旅の僧たち(ワキ,ワキツレ)が甲斐の石和(いさわ)川に赴く。鵜飼いの老人が来かかるので言葉を掛けてみると,僧の一人が前に接待を受けた宿の老人だった。老人は,実は自分はすでに死んで地獄に落ちている者だと打ち明け,殺生禁断の場所で鵜を使ったのが見つかり,川に沈めて殺されたのだと物語る。そして罪滅ぼしのためにといって,生前そのままに鵜飼いをして見せるが(〈鵜ノ段〉),やがて闇の中へ消え去る。僧が小石に法華経の文字を記して弔うと,地獄の鬼が現れ,一僧一宿の功徳と法華の力で老人は成仏したと告げ,この経を賛美する(〈ロンギ〉)。鵜ノ段を中心とする素朴で古風な構成の能である。
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旺文社日本史事典 三訂版 「鵜飼」の解説

鵜飼
うかい

鵜を用いて魚をとる漁法
古代から存在し『隋書』倭国伝にもみえる。律令制では宮廷に直属した。吉野川・初瀬川,ついで桂川・宇治川などのほか民間でもほぼ全国的に存在。特に鮎 (あゆ) 漁が有名。中世には武家も愛好し,近世,大名は各地で鵜匠を保護し鮎を貢納させた。長良川の鵜匠は尾張藩に所属した。現在は観光用として船による夜漁の形式のみ盛んである。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鵜飼」の意味・わかりやすい解説

鵜飼
うかい

能の曲名。榎並左衛門五郎作,世阿弥改作。五番目,殺生物。甲斐の石和 (いさわ) 川で禁を犯して鵜飼いをし,簀巻きにされた鵜飼師の亡霊を,旅僧の回向 (えこう) によって成仏させるというもの。阿弥陀信仰による『法華経』賛美譚。

鵜飼
うかい

広島県南東部,府中市の中心市街地の一部。府中の桐たんすの発祥地で,現在もたんすを中心とした家具や織物の産地。地名は芦田川で行われていた鵜飼にちなむ。 JR福塩線鵜飼駅がある。

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