風流踊(ふりゅうおどり)の一つ。始原は鹿島神宮の神人による疫神送り(悪霊払い)にあるといわれ、江戸時代に鹿島信仰を背景に「鹿島の事触(ことぶ)れ」と称する神託を行って歩いた下級神人によって各地に波及したものと思われる。本元の茨城県鹿島神宮では文政(ぶんせい)年間(1818~30)に絶えたが、神奈川県の小田原市、足柄下(あしがらしも)郡、静岡県の熱海(あたみ)市、伊東(いとう)市、賀茂(かも)郡など湘南(しょうなん)から伊豆の東海岸にかけて相模(さがみ)湾沿いに今日も数多く点在する。青年男子が主体となり、15~50名くらいで踊られ、方舞と円舞との組合せよりなる。衣装は所によって異なるが、太鼓1人、鉦(かね)1人または2人、三役(黄金柄杓(こがねひしゃく)・日形・月形各1人)の役の者を含む踊り手全員が狩衣(かりぎぬ)仕立ての白浄衣(しろじょうえ)に烏帽子(えぼし)をかぶるのが本格的で、役の者以外は幣束(へいそく)の柄(え)を肩にかけ、扇を持つ鹿島の下級神人の姿をとる。踊りには歌を伴うが、その歌詞には鹿島信仰と弥勒(みろく)信仰との習合が認められる。鹿島踊はほかにも静岡県島田市、東京都奥多摩町小河内(おごうち)、長野県飯田(いいだ)市にもあり、鹿島踊と関係が深いといわれる弥勒踊は千葉県館山(たてやま)市洲崎(すのさき)、埼玉県春日部(かすかべ)市大畑(おおはた)などにあるが、いずれも湘南から伊豆にかけての鹿島踊とは内容が異なる。
[高山 茂]
茨城県鹿嶋市鎮座の鹿島神宮の信仰を持ち歩いた〈鹿島の事触(ことぶれ)〉と称する宗教芸能者が広めた歌舞。歌に〈誠やら鹿島の浦に弥勒(みろく)お舟がついたやら〉と弥勒菩薩の来訪を賛美する詞章があるところから弥勒踊ともよばれる。神奈川県の湘南海岸から静岡県伊豆半島の東海岸にかけて分布する鹿島踊は,烏帽子・白丁(はくちよう)姿の青年がひしゃくや日月を象徴する採物(とりもの)や白幣などを持ち,太鼓・鉦のリズムにのって陣形を変えながら踊るもので,茨城・千葉県には年輩の婦人集団や少女たちが円陣になって踊る弥勒踊や鹿島踊もある。他に東京・埼玉・長野県などにも点在するが,東京都西多摩郡奥多摩町小河内(おごうち)の鹿島踊は《三番叟(さんばそう)》から始まる古風な歌舞伎踊で注目される。なお歌舞伎舞踊にも鹿島神人の事触を舞踊化した長唄曲があり,本名題《四季詠寄三大字(しきのながめよせてみつだい)》,1813年(文化10)江戸中村座で3世坂東三津五郎初演。《俄(にわか)鹿島踊》ともいう。
→鹿島信仰
執筆者:山路 興造
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…弥勒仏の到来を鑽仰(さんぎよう)する弥勒踊は,現在も鹿島地方に濃厚に分布している。さらに鹿島の神が流行病などの災厄を払ってくれることを説いた鹿島踊も派生しており,鹿島踊と弥勒踊は,伝播する過程で習合した形で地域社会に受容された。 第2に,鹿島の地に,さまざまの災厄を追い払おうとする鹿島送りの信仰が展開した。…
…2世瀬川如皐作詞,市山七十郎振付。12ヵ月の十二変化物で,傾城,坊主,業平,いさみ商人,清正虎狩,台所唐人,田舎ごぜ,鹿島踊,木賊苅(とくさかり),雇奴(やといやつこ),鷺娘,金太郎と続く。うち初鰹を売るいさみ商人の《松魚売》,鹿島の事触れを舞踊化した《鹿島踊》(初世杵屋勝五郎作曲の長唄と初世鳥羽屋里長作曲の富本の掛合)が残る。…
…弥勒信仰にちなむ芸能で,弥勒歌などを歌いながら踊る。沖縄,茨城,千葉,神奈川,静岡などの海岸地方に分布し,地方によって鹿島踊ともいう。鹿島踊は鹿島神宮の信仰に関係があり,弥勒の来訪を賛美する歌から弥勒踊とも呼ばれる。…
※「鹿島踊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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